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天光源によって滑りやすくなっているので、タミルノたちは予め準備していた内部に緩衝材を貼り付けたような作りの容器にいったんクル像を寝かせ、前と後ろから支えながら滑らせるようにして慎重に運んだ。土の出ているところまで来ると今度はそれを箱から出して人が集まるところまで持ち運んだ。
取り囲んだ者たちが一部始終を見守っていた。その最中だれも何も言わなかった。
直接間近で見ると、それは細部に至るまでまったくクル像そのものだった。見た者は全員それに気付いてあらためて驚嘆した。これをクルと見做し、祈り崇めて良いのかという先の議論をもちろんだれも忘れたわけではなかった。しかし、理ではない。もはや異を唱える余地がない。これはクル像そのものだ。クルでしかないのだ。
その場にいる全員が斉しくそう感じた。いや、感じたのだろうか。それは個々の心の中に浮かんだというより、その「考え」そのものがこの場を吹き抜けるのを全員で目撃したというような共感であった。
だれも何も言わなかった。
その時から、特に正式な指示も計画もなかったが人々は会所をどこに建てたらいいとかそれぞれの住む家をどのように決めるべきだとか色めきたった。資材の元になる光源はすでにかなりの量が蓄えられている上、人々はその採取にもさらに精を出した。まず会所などの共有物を構築するのにそう時間はかからないだろう。
一気に活気付いた人々の喧騒を避けるように、ヌルはマセルの脇にいてその様子を見守っていることが多くなった。
「まるで現世のようだと思わないか? ヌル。俺はタミルノたちがあそこにクルを運んで置いた瞬間からずっとそんな気持ちがしているんだ。クル像があるというだけなのに、ふとここがそのまま現世に戻ってしまったように感じないか?」
ヌルはそれには答えなかった。
「マセル……」
「ん? どうした?」
「……今度は壊すなよ」
ヌルは嗜めるような、おどけるような口振りではっきりそう言ったが、マセルには顔を向けず、慌ただしく動く人々を眺めたままだった。嬉しそうだった。