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天国のマセル  作者: 中至
ヌルの確信
190/292

10

マセルは、ヌルが祈る傍らで跪いて目を瞑った。一度ゆっくりと息を吐くと、マセルはシリと過ごした短い日々を無理に思い起こそうとして見た。シリが生まれ、育ち、幼くして逝く日まで。思い出すと泣きそうになる。しかし、マセルはその中でこれという特定の場面がないことに気付いた。


死の瞬間にもマセルは立ち合っていないのだ。知らせを受けて駆け付けた時にもう遅かったのだ。むしろ思い出したくもないのだった。


マセルはしばらく心を鎮めようと目を瞑ったままにしていたが、歪んだような、痛々しいような考えばかり次々に浮かんだのでついにそれを諦めて目を開けた。


ヌルはまだじっとそのままの姿勢で祈り続けていた。


マセルは力なく地表に尻を付けて、もう一度ふうと息を吐いた。その気配を合図のようにして、ヌルも長い祈りをやめて目を開くとマセルの様子を見た。別段何も問わず、また心を読むこともせず、ヌルはしばらくマセルのほうを眺めていた。しかし、ヌルは急に立ち上がるとクル像らしき塊の所に前と同じようにうつ伏せた。


「マセル、これいつ出てくるかなあ」


ヌルはマセルの様子など構わず半ば独り言のように話しかけた。


「前より上に動いているかなあ。あんまり変わってないような気がするけど。マセル、復活見たことある? あ、あるわけないか。僕は何度も見たことがあるよ。お父さんが言うと必ずそこに人が埋まってるんだから。これも、たぶんだんだん上に上がってくるよ」


マセルは最初聞き流すように黙って座っていたが、気を取り直してヌルと同じように寝そべって、それを見た。前に見た時から何の変化もないように見えた。


ところが、それからほどなくして他の者が見に行った時、クル像の埋まっている辺りの光源がもう粉末状に変化していることを発見した。タミルノを初め、人の復活の様子を知っている者たちは、表出が通常の人の復活の場合よりかなり早かったので少し驚いた。


とにかく、タミルノは何人かの者に声をかけて集め、これを地表に掘り出して自分たちの居所まで運んだ。

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