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天国のマセル  作者: 中至
タミルノの真意
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タミルノの真意 1

翌日マセルはヌルの案内で市場へ出かけた。その途中、マセルは空の色がずっとまったく変わらないままだと気が付いたが、たまたまだろうかと思った。


「ヌル。今は何時くらいなの?」

「ううん、ここには時間なんかないんだよ……ああ、空のことだね」

「そうなんだ。昨日から全然変わっていないように見えるんだけど」

「そうだよ。ずっと同じだよ」

「じゃあ、夜になったり、朝になったり……そういうことはないってこと?」

「うん」


マセルとヌルは取り留めない会話をしながら道を進んでいった。何人かの人とすれ違ったが、みんな気さくに声をかけてくれた。


「あそこが市場だよ!」


ヌルは元気よくそういうと、少し急ぎ足になった。遠目には市場と言ってもだだっ広い赤土色の広場に、それぞれが露店を出しているような感じだった。しかし、近付いて見てみると市場は賑やかで思いのほか棚が多く、生活に必要なものはほとんど何でも揃っているように思えた。マセルは本当にここが地獄なのだろうかと思った。


ひとしきり回って見た頃、新たな一群が現れて、少し離れた場所に棚を開けはじめた。このように市場には入れかわり立ちかわり人がやって来て、持ってきた品物を捌き終わると帰っていくのだろう。マセルは今来た人たちのほうに近付こうとした。


「あマセル。そっちは言っちゃダメ!」

「え?」

「あいつらはアジョ会衆だよ。あいつらはいつも変なもの売ってるんだ。それにあいつらのところはお金がないと買えないよ」

「そうなのか?」


マセルは昨日住人たちがアジョ派の奴ら……と言っていたのを思い出した。しかし、それならそれで、なぜわざわざ同じ場所で棚を開くのかマセルは解せないと感じた。


「あいつらは何か悪いことをしてるんだよ」

「ふ~ん……」

「あっちに行ってみようよ。あそこにおじさんが来た」


マセルは不思議に思ったがヌルに聞いても詳しく分かるはずもないと考えてそれ以上聞かなかった。


おじさんというのはタミルノが馴染みにしている主人で、ヌルとも親しいようだった。ヌルは得意げにマセルを紹介した。


「おじさん! マセルを連れてきたよ」

「ああ、あんたがマセルさんか。どうだったい? 俺の作った料理はうまかったろう?」


マセルは突然でよく分からなかったが、きっと昨日の料理がそうなのだろうと思って礼を言った。


「ああ、とてもおいしかった。生きてたときも、あんなに御馳走を食べたことはない気がするよ」


おじさんは上機嫌になってはっはっはっ、と笑った。マセルは遠慮したが半ば押し付けるかのように食料と衣などの日用品を持たされた。マセルは気になっていたことを尋ねた。


「あっちはアジョ派とかいう人たちだそうだが……」

「ああ。まあ、あんたまだ新参だろう? 今日のところは近付かないに越したことはないな。まあヌルと一緒なら心配はないだろうが……」


あまり詮索しても不審に思われるかもしれないと考えて、マセルはそれ以上聞かなかった。もう一度礼を言って、マセルとヌルはいったん家に戻ることにした。


タミルノの家に戻り、荷物を降ろしてからマセルはまたヌルを連れて、昨晩会った住人たちの家を訪ねて回ることにした。ヌルはどんどん先に走って行っては、ここはだれの家、ここはだれの家だと教えてくれた。住人達の家はどれも同じような石積の外観だったが、中はかなり広いようで入り口から中の様子はほとんど分からなかった。しかしマセルが声をかけるより先にヌルはだれの家でも「マセルが来たよ」と大声で勝手に上り込んでいった。


留守の者やまだ眠っているものを除いて、会って話ができた人たちは皆とても気安く接してくれた。ヌルを連れていたこともあってマセルは気まずい思いをせずに済んだ。マセルはアジョ派のことについて控えめに尋ねてみたが、とにかくどの住人もみなアジョ派をあまりよく思ってはいないようだった。


ヌルについて回るような形になってマセルはいささか疲れた。マセルはタミルノの家に戻って、水を飲んでから少し休むことにしたが、ヌルが外で遊びたがったので家の前に腰を下ろして、今までのことを整理しようと思い出してみた。

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