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天国のマセル  作者: 中至
ヌルの確信
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しばらくは集まる人が多かったので避けていたが、それが落ち着くとヌルはまた度々そこへ行った。ヌルは相変わらずその場所へ行って祈りを捧げることをやめなかった。ただし、いつもマセルが付き添うようになった。何か不吉なことが起こるのではないかというような明確な根拠のない予感に囚われたヌルは一人でそこにいることに強く怯えたからであった。


マセルには分かっていた。ヌルがその臆する気持ちよりも強く願ったこと。


「もう一度お母さんと……」


そんなことが起こり得るだろうかと度々疑念が過った。しかしマセルはヌルの話を素朴に信じようとしていた。ヌルが熱心に祈りを捧げている間マセルは自分も祈ることはせず、たいていそのヌルの様子をじっと見ていた。


「現世なら……だれもが子供の想像に過ぎないと思うだろう。たとえば、亡き母親と心の中で話したなどと言っても。


しかしここでは違う。


この地で何が起こり得ないなどと言い切ることもまたできないのだ。現にここに、目の前に、本来起こり得ないことが起きている。


いやそもそもここでの人々の心の有り様も、すでに全部あり得ないようなものなのだ。



……俺は何をすべきなのだ。



理ではない。



だが何か俺に託された何かがあるのだ。あの時のように。何かが俺に託されているような」



マセルはヌルを見つめているうちに不意に自分の実の息子、シリのことを思い出した。


「もしも、シリがどこかに復活しているのなら……いや何を期待するのだ俺は」


マセルは不意に浮かんだ自分の考えを即座に強烈に否定しようとしていることに気が付いて、ぼうと眺めるようにその流れを自覚した。


「なぜ思う。なぜすぐにあり得ないと考えてしまうんだ。ここではそんなことは言えないと言ってるじゃないか。なぜ自然にそう考えてしまう」


マセルは自分の中に湧き上がる複数の相反する思考や感情を、腹立たしく情けなく思った。どれもこれも勝手に湧き起こってくるのだ。己の意志そのものはどこにあるのだ。


しかしでは実際にヌルと同じように、シリとの再会を純粋に信じて祈り続けることができるのかと自問すると、それは何よりも困難に思えた。


マセルはむしろ畏敬にも憧憬にも似た感覚とともにまだヌルを見つめ続けていた。

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