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ヌルは何も説明しなかった。マセルがついて行くと、ヌルはいつも同じところを通っているようで、慣れた足取りで光源の中に分け入って進んだ。そこはヌルが一人で祈っている場所であった。
「ここで、お母さんと話したのか?」
ヌルが何も言わないのでマセルのほうから聞いた。ヌルは何も答えず立ったまま俯いていた。
「でもどういうことだろう。この地に、まだ俺たちが知らない人たちがいるのかな」
ヌルが話さないのでマセルは意図を掴みかねてヌルの心を読もうとした。しかし、ヌルはいきなり光源に覆われた地面に倒れ込むようにうつ伏せると、頭の上に伸ばした手で地を撫でるように動かしながら呼んだ。
「マセル! マセルちょっと! ここ、よーく見て」
ヌルが急に叫ぶように呼んだのでマセルは訝りながらもヌルが示した辺りを覗き込むように見た。
天光源は離れて見る分には白く見えるが、近付いて凝視するとほぼ透明に近い。と言ってもこの地は常に薄暗いのでマセルは最初特に何も見えなかった。そもそも、そこに何かがあろうなどと想像していなかった。
しかし、ヌルを蔑ろにするわけにもいかずマセルは一段と腰を屈めてヌルが期待している通りまじまじと光源の奥のほうを覗いた。
「……ん?」
少し奥のほうに何かが埋まっているように見える。マセルは一瞬どきとしたが、よりまじまじとそこに埋まっている何かを見ようとヌルと同じように光源の上にうつ伏せになって観察した。
「ヌル。……あれ、人じゃないか?」
それは表面から見れば人の丈二つ分くらいの深さに埋まっており、はっきり見えるわけではないが頭と胴体があるように思えた。見ようによっては人のようにも見えた。とにかく、何かが埋まっていることは間違いない。
マセルは漠然と怖いような焦るような感覚に何と言ってよいのかよく分からず、ゆっくり息を吸いながら黙ってヌルの顔を見た。同時にとにかくこれをすぐにタミルノたちに知らせなければならない気がした。
しかし、ヌルはさらに意外なことを言った。
「マセル、あれさ……クルじゃない?」
ヌルの見解を言葉として把握する前に、一瞬マセルは混乱のような、戦慄のような感覚が胸の中に絞り出されるように広がるのを感じた。なぜだか自分でも分からないままマセルは咄嗟に
「違う! あり得ない!」
という言葉を想起した。それは何かの根拠を持って考えた結果ではなく、ほとんど反射的に浮かんだ言葉だった。
だが、そう言われてもう一度見ると、その埋まっている塊のようなものは正しくクル像のようにも思えた。細部までは見えないがその輪郭は比較的はっきり見えている。あらためて、これは何の形かと問われたらおそらくクル像と答えるのが相応しいようにも思えた。
「なぜ……」
とマセルは言いかけたが、そんな問いにヌルが答えられるわけもないと気が付いて言葉を切った。