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マセルは俄かに信じられなかった。しかし、ヌルの様子から察してそれを一笑の下に疑ってかかるとヌルが傷付くような気がした。言っていることはともかく、ヌルはおそらく相当に躊躇して、他ならぬマセルに打ち明けたのである。それでマセルも真顔になって尋ねた。
「ヌル。確かに信じられないような話だけど、もう少し詳しく話してみろ」
ヌルは少し笑顔になった。
「うん、あのね、ぼく実は、光源のところに行って、いつもお祈りしてたんだ。それで……そう、お母さんのこと思い出してたら、思い出してるのといっしょにお母さんの心が見えたような気がして」
「うん」
「ぼく、あっと思って、心の中でお母さん、って呼んで、そうしたら、やっぱりお母さんで、お話ができたんだけど、途中でまた見えなくなっちゃって。今度、いっしょうけんめいもう一度探したんだけど、もうお母さんの心はもう、読めなくなっちゃった。でも確かにあれお母さんだったんだ!」
マセルは疑うというよりも何か不可解な気持ちになった。あり得ない、とは思わなかった。ただヌルの話を咀嚼しきれないで何をどう考えていいのか分からなかった。
「それ、で……何を話したんだ?」
「うん、あの、お母さんは天国にいるって。それで、こっちは地獄みたいだけど、マセルは違うって。お父さんもこっちにいるって言ったら。会えたの、良かったって。あと、心配要らないって言った。こっちは辛くない? とか、どんなところ? ってお母さんが聞いたから。だいじょうぶ、ふつうのところ、って言った」
「そうか、それで?」
「あとは、お母さんはたぶん、ごめんね、って何度も言ったんだけど、途中で見えなくなっちゃった」
マセルはヌルの説明をそのまま受け入れて聞いていた。それは夢だとか、空想を話しているのかも知れないとか、そのようには一切思わなかった。無論そのまま信じられるような話でもなかったが、何となく、どちらかと言えば本当のような気がした。
「それで……マセルちょっと、ちょっといっしょに来てほしいんだけど」
ヌルはまた少し言いにくそうな表情をした。
「ん? どこへ?」