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ヌルは、時々祈りに行く他はほとんどの時マセルといっしょにいた。少し前には大人たちの様子を気にかけたり、クル像の製作を急かしたりしていたのに、いつの間にかだれもそんなところを見なくなった。
マセルはマセルで、今まで通りただ寝転んでいることが多い。その横にうずくまるようにヌルが座っている。二人とも口数は少なく、ぼうと辺りの様子を眺めているのであった。
ただ、マセルは人々がこうして光源の採取に精を出し、またここに作る像や会所の配置などの話に沸いているのを好ましく見ていた。マセルは、クル像が実際に立つという実感に伴って人々がこの地において忘れかけていたクル教本来の気質を取り戻しつつあるように思えて安らぐような気分になった。
一方で、あれほど熱心だったヌルがそれに加わらなくなっていることが気にかかった。しかし、それをいちいち詮索するようなマセルではない。マセルは、ヌルがそばに寄り添うようにじっと座っていても、時々ふと思い出したように立ち上がってしばらくどこかに行っても、特に何も聞かずしたいようにさせているだけであった。
ところが、ある時いつものようにどこかへ行っていたヌルが、戻って来るなりおかしなことを言った。
「ねえ……ちょっと、マセル。ちょっと」
ヌルは何か言いにくそうな、あるいは少し怯えているような様子に見えた。マセルは目の前で立ったまま躊躇しているヌルをじっと見て、ヌルが自分から話し始めるまで黙って待った。
するとヌルは縋るようにマセルに身体を密着させて両手をマセルの腰辺りに回してしがみついた。それで初めて、マセルは何かただならぬことのような気がしたので自分からヌルに問い質した。
「どうした。ヌル、何があった」
「うん、マセル……」
ヌルはまだ言おうとしない。しかし、最初の様子と違って少し落ち着いている。それで、マセルはふと笑顔になってもう一度聞いた。
「どうしたんだヌル。そんなに」
するとヌルが言った。
「あのね、ちょっと……ちょっと信じないかも知れないけど」
マセルは縋りついているヌルを引き離してその顔を見た。ヌルはもう落ち着いてはいるが、顔は笑ってはいなかった。
「あのさ、マセル信じる? ぼくね、今ね……お母さんと話した」
「……?」
「さっきお母さんのこと考えてたの。そしたら、お母さんの心が分かって、お母さんもぼくのほうに気付いて、それで……心で、話せたんだよ」
マセルは一瞬意味が分からなかった。二人ともしばらく黙っていた。
「ヌル、お母さんって、ここにいないんだろ?」
「うん、あの、お母さん天国にいるって」
「天国……って」
「だって、さっき言ってた。お母さん自分で言ったんだ」