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光源はますます蓄えられていき、その一部はすでに像を拵えるために何種類かの硬質な資材となるように区別して保管されていた。しかし、実際に作るとなると人々は大きな問題に気付いた。
「やはり一度原石のように材料を拵えて、その上で彫を施すのが良かろうな」
「現世にあったような、あんなに繊細な細工をするにはよほどの腕が要るぞ。自信のある者はいるか?」
「アジョ派の中に細工師がいたろう?」
「だがあいつが得意なのは木彫りだ。それに、あいつのは……」
もともとアジョ派に属していた者の中には、小さなクルの彫り物を携帯している者がいた。しかし、それはまるで子供のおもちゃのように可愛らしいもので、人々が思い描いている現世にあった像のように精巧ではない。
「これはお守りのようなものに過ぎん。これから我々が作ろうというのは、この程度の彫り物とは訳が違うぞ」
「だがな、他にいないならやむを得ない、呼び寄せるか?」
「それもどうだろう? 途方もない時間がかかる。それに、結局望ましい姿にはとてもなるまい」
それぞれが思いを巡らせた。だれもが納得する程度に同じ姿態を再現しなければ、いくら、これがクルだ、と言ったところで拝む気持ちにもならないのではないか? といって、そのような精巧な像を作ることは不可能に思えた。
「あるいは、型を作って光源を流し込むのは? ……いや、その型を作ることが同じくらい至難か」
「それより、何度でも納得できるまで試作を繰り返すほうが手早いのではないか? 目指す姿態はみな同じのようだし、各自が試して一番良いものを採ろうではないか」
しかし、他の者は即座にそれに反論した。
「試しに作ってみるなど……クル像は単なる品物ではないのだ。そんなものでは、たとえうまく出来上がってもクルと呼ぶことなどできん」
結局、像の製作にだれも手を付けることができないまま光源だけがどんどん貯まっていった。大人たちの様子に、ヌルは痺れを切らしていた。
「お父さん、みんなどうして早く作らないの?」
「うーん、それがな、像を彫るのが思ったより難しいという話しになってな」
「彫るの?」
ヌルはきょとんとした。
「そっか、ぼくたちで作るには……でも、あれって彫るんじゃないと思うよ。あれはたぶん……クルが自分と同じ形の石を作ったんだと思うんだけど」
「ははは、ヌルはずっとそう思ってたのか?」
「そうだけど」
タミルノは最初それをいかにも子供の発想のように感じてただ微笑んでいた。
しかし、その内に妙な考えが湧き起こったように思った。そう言われてみれば……確かに、そもそも現世にあるクル像は石を削っただけで出来るような粗い作りではない。まるでだれかを見本にしたように精巧、かつそれは石であるにもかかわらず、まるで磨き上げられたかのような滑らかな手触りであった。確かにあれは、たとえどんな名手であっても彫を入れただけであのようなものができるだろうか?
何か特殊な技巧が必要なのか……タミルノはいつの間にか目を瞑ってじっくりと考え込んでいた。