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「俺たちの手で自らクル像を作るというのはどうも、畏れ多い気もするなあ」
「とは言っても、もともとあった像だって最初はだれかが拵えたんだ。同じことじゃないか?」
「いや、だれかが作ったという確たる証拠があるわけでもなし……最初からあった、のかも知れんぞ」
「それは余りにも空想的だが」
「いやあ、クル像が最初からあって、何の不都合がある? それならば聞くが、では十言を初めに言い出した者はだれか? それも人が拵えたものだというのか?」
「そう考えると答えに窮するが」
「ほれみろ、人が作ったと言い切れるものでもないわ、ははは」
「しかし、マセルはそれを打ち壊してしまったのだぞ。いや、あいつを責めるつもりではないが」
「それなら、その後にはまた新しいクル像ができたのであろうな」
「しかし、クル像を拵えたとか、作り直したとか、そんな話はだれも聞いたことがない」
「うーん、いったい真実はわしらには知りようがない。考え出すともやもやする」
人々は光源の採取の傍ら、憶測も絡めながらクル像について様々に話し合った。こういった半ば空想的な答えの出ない問いについてくだけた議論を交わすのはクル教の会衆においては日常的な光景であった。そして現世ではたいてい最後にはどれも人間の解釈だと締めくくるのである。
マセルは積極的に話に加わることは少なかった。時折マセルの名が出てくるたびにヌルのほうが一人心を痛めていた。
「ヌル、俺は何も気にしてないよ、大丈夫だよ」
クル像を壊した当人であるマセルのほうが逆にヌルを励ました。ヌルは納得しなかったが、かと言ってそれをだれかに言うわけでもなかった。ヌルはただ未だ消えないマセルの中にある怖れを見、ひたすら光源を掻き集め、タミルノや他の人々にクル像の製作を急かすことしかできなかったのである。
「とにかく、マセルが壊したクルを復活する。そうすればマセルは大丈夫、救われるんだ。ぼくは信じる……だからマセルは、そのためにぼくたちのところに来たんだから」
ヌルは自ら得たその結論を何度も心の中で繰り返していたので、ごく近しい者はその思いに気が付いていた。しかし、ヌルはそれを決して……父であるタミルノにすら決して口に出して言わなかった。