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マセルは遠慮なく食べ、飲んだ。野菜や生肉のようなものはないが、それぞれに工夫された料理でどれもうまかった。
「しかし本当にここは地獄か。この豊富な食料は、何というか……これじゃ生きてたとき以上じゃないか」
マセルは大仰に驚いて見せた。それを見てヌルは得意げに言う。
「あのね。本当は別に何も食べなくてもいいんだって。ただ僕はやっぱりおなかは減る気がするから毎日何か食べるんだけど。食べなくても平気なんだって」
ヌルはここではマセルより先輩格のつもりなのでいろいろ説明したがった。マセルは驚いて見せた。
「へえ、そうなのか?」
「うん。みんな何か食べたい時だけ市場から持ってくる」
「そうか。市場もあるのか……でもその市場って誰がやってるんだ?」
「うん市場はおじさんたちがやってる。なくなったら終わりだけどみんなタダ」
「タダ? 本当なのか?」
マセルは思わずタミルノのほうを向いて、確かめた。
「本当だとも、ここにある料理も全部タダだぞ。な、ヌル」
タミルノが念を押すように言ったが、ヌルは自分の言ったことをマセルがもう一度タミルノに確認したので少しふくれていた。住人たちが口を挟んだ。
「だってワシらはたぶん永遠にここで暮らすしかないぞ。地獄に来てまで金だの財産だの、貯めたところでどうするってこともできやしないのに……」
「本当。金の心配をしなくていい分だけここは天国だよ。マセルさんだってそう思うだろう? なのにアジョ派の連中ときたら、一体何を考えているんだか」
マセルは住人達のうち数人の心が急に曇ったように感じて不審に思った。
「アジョ派というのは?」
「あ、マセル。アジョ派の人たちはね……」
ヌルがすかさず説明しようとしたが、タミルノがそれを遮るように言った。
「まあ、それはまた今度話すとして明日さっそく市場に行ってみたらいい。ヌル、明日マセルを市場に連れてってくれ。お前なら案内できるだろう?」
「うん!」
ヌルは得意げに返事をした。