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天国のマセル  作者: 中至
ヌルの奔走
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ヌルが直接言わなかったのでマセルはしばらく知らなかったが、その後ヌルはだれ彼かまわず触れ回って、この地にもクル像を作ろうと説いて回った。


「おじさんたちの言うことも分かるけど、でももともと会所には像が立っていたんだし、あってはいけないってわけじゃないでしょ」


大方の大人たちは、もうそういう話題に関心が薄らいでいて、ヌルが話しても曖昧な返事をして微笑むばかりでまともに聞かなかった。しかし、ヌルは以前と違って、ただ自分の主張を頑なに守るのではなく、大人たちのそれぞれの意見に妥協点を探すように問いかけた。それで、次第にヌルの提案に真面目に耳を傾ける者も出てきた。


「みんなは大人だから。でもぼくは子供だからクルがそばにいる気がするだけでもとても嬉しいんだ」

「まあ、ないよりはあったほうが祈りなどしやすいかもな」

「そうでしょ? また昔のように、ちゃんと集まってみんなでお祈りしたり、お話したりするんだよ。そのほうが、会所って感じでしょ?」


そうするうちに、何人かのものはヌルに同調してタミルノにクル像の製作を具申し始めた。それで、居合わせたマセルもその提案の発端がヌルであると知るところとなった。


ところが、ヌルはマセルのそばにいるときには一向にその話を口にしなかった。あえて避けているようにさえ感じられた。それで、マセルもその話をヌルに持ちかけるのは遠慮した。ヌルはあえてマセルのような親しい大人たちに頼ることなく自分の信じるところを自力で行うことで進むべき道を確かなものにしようと意識しているのだろうか。マセルは何度かヌルの心を読んでみたが、クル像を作ろうという意思だけが強く現れていて、その動機をはっきり掴む機会はまだ得られずにいた。


「タミルノ、なぜヌルは俺に話そうとしないんだ?」


マセルはヌルがいない間にタミルノに尋ねた。しかし、タミルノは答えずにマセルのほうを眺めて微笑んでいた。マセルは、ヌルばかりかタミルノさえこの話題を避けているのかとばつが悪い心持がして、いきおい自分の問いに自分で答えるように言った。


「まあ、ヌルだって俺たちと同じ地に来た男なんだから。本気で独り立ちしようと考えているのだろうが……」


 しかしタミルノはマセルの想像とはまったく違うことを言った。


「ヌルがしようとしているのは、ただそういうことだけじゃない。マセル。ヌルはな、お前が犯したかも知れないその罪を贖うために、お前のためにクル像をこの地に復活させるつもりだ」


半ば俯いていたがマセルはあまりに意外だったので思わずタミルノのほうを向いた。


「もちろん、ヌルもクルの像を壊しただけでクルご自身がどうにかなるなどとは思っていない。ただ、ヌルは素朴な自分の推測に忠実に生きたいのだ。やはりちゃんと身体がないと、クルの心の行く場所がないと言ってな。クルを象ればクルが宿る。だからもう一度、ここにクルを作るんだよ。そうすればマセルはもう怖がる必要はないと」


「怖がる? ヌルがそう言ったのか?」

「ああ、ヌルはずっと前から感じていたらしい。マセル、お前の心の奥底にある怖れを。俺にはまったく感じられないがな。それどころか、お前自身思いもしないだろう。しかしヌルはかなり前からそれを知っていたというのだ。ずっとそれを知っていたのだと」

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