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大人たちの話をさらに聞いても変わらない気がしたのでヌルは自分なりにもっと考えようとして、長い時間じっと目を瞑って座っていたり時には当てもなくうろうろ歩き回ったりしてみた。しかし特に新しい考えは浮かばなかった。そもそも、そうやって考えるふうにしてみたところで実際にはヌルはこれ以上何をどう考えれば良いのか見当が付かなかった。
そうしているうちに、論が出尽くしたのか大人たちはこのことについてあまり話さなくなった。その頃にはヌルはもはや求めても答えてくれる人はいないのだと悟り、今は自分の思うところをそのまま信じようと決意していた。
「マセル……」
「ん? なんだ?」
ヌルはかなり躊躇して言葉を接げずにいるようだった。それでマセルはヌルの心を読んだ。
「マセルはどうしてクルを壊したの?」
そう尋ねたいのだと分かった。ただ、ヌルは前にも同じ質問をしたことがある。いや、ヌルは前から何度もその経緯を聞きたがった。マセルはその度に同じように生前の経緯を話して聞かせたのだ。
しかし、マセルは咄嗟に理解した。今ヌルが聞いている意図は今までとは少し違う。マセルが壊したというクル像はクルご自身なのである。ヌルにとってみれば、突き詰めればマセルはクルを殺したのである。
「ヌル……」
マセルはすぐに返事が出来ずにいた。ヌルの心を見ても、マセルを責めているのではない。ただ不可解な悲しみにも憐みにも似た感覚に覆われているだけであった。マセルは、もちろん自分の正当さを説くつもりなどまったくなかった。ただヌルが急に自分から離れて行ってしまうような、今までそう何度も感じたことのない喪失感に自分で動揺した。
「……ごめんな、ヌル」
マセルは自分でも何を謝っているのかよく分からないまま理屈の通らない謝罪を思わず口にしていた。ヌルはしかし何も言わずただうんと頷いた。
マセルはそれ以上ヌルの心を読もうと思わなかった。ただ、ヌルが頷いたのを見ると急に泣きたいような感覚が襲った。本当に涙が出るのではないが、おそらくこの感情が高ずるときっと泣いてしまうだろうというような不甲斐ない予感がした。
もちろんヌルはただ頷くことによってマセルに赦しを示したのである。責めようとしているのではないということを。しかしマセルはむしろそのことによってヌルが無自覚にではあるが自分と決定的に決別しようとしているような気がした。