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正確なことは分からないが、マセルとタミルノたちがそれぞれに生存していたのは、おそらく途方もなくかけ離れた時代である。マセルはこの地に来た時、住人たちに自分が生きていた時代の暦や王の名を教えたが、だれ一人それを知らなかったからである。住人たちから聞いたそれもマセルはまったく知らなかった。それで、どちらが後か先かすら見当が付かなかった。
クル像の姿形がその長い年月を経ても変わることもなく伝えられているとすれば驚くべきことだとマセルは思った。いや、あるいはタミルノやヌルが拝んだクル像と、マセルたちのそれとは世々受け継がれてまったく同じものだったのかも知れない。
「いや……しかしそれは」
マセルは改めて思い出した。自分がそのクル像を自ら打ち壊してしまったということを。あの後どうなったのだろう。だれかがまた似たような像を拵えたに違いない。偶像とは言え、会衆の中心にクル像がないというのはマセルにも想像できなかった。
クル像はおそらく、そのような試練や迫害を受けて何度も作り直されたに違いない。
「お前がクル像を壊したことと、何か関係があるのかも知れない……」
マセルの思いをじっと察していたタミルノがふと呟いたので、ヌルとマセルはタミルノのほうを見た。
「いや、お前がここに来た最後の者だということと」
タミルノは言葉を接いだ。マセルがクル像を打ち壊したことでクル教が消滅したとすれば。マセルは自らの推測に驚いて言った。
「もしかすると、俺がクル教を滅ぼした張本人だというのか?」
「あくまで推測だ」
「……」
しかし、クル像がどうあれ、クルの名と十言が伝えられるなら信仰そのものは存続するはずだ……現にこの地にはクル像がなくても揺るぎない信仰が守られているではないか。
「マセル、だがここは現世ではない」
「……そう、だな」
タミルノは急に嗤って言った。
「はっはは。どうあれ、心配ない。良かれと思って決めたことだ。だれにも責める理由はない。気に病むな、マセル」
しかしマセルは黙っていた。ヌルも黙っていた。