2
「あいつは、目的が欲しいんだ」
タミルノは心配するふうもなく言った。
「何のために、と考えだすと目の前の行動に迷いが出る。だがきっとヌルは今、少しだけ成長しているんだろう。歳は取らなくてもな。俺はむしろ嬉しいんだ」
「分かるよ。父親なら」
マセルは表情を変えずにそう呟いた。
「ああ。自分の子が男になっていくのを見るのは嬉しい。そう言えば、イリアエルに言われたそうだ。技を学ぶにはもっと心を鍛えないといけない、だそうだ」
「ふん、まあ一理ある。それは、ヌルへの助言か? それとも自戒して言ってるのか?」
マセルは皮肉っぽく笑った。
「はは、まあそう言うな、マセル。お前イリアエルにはいつも厳しいな」
その時、ヌルが少し思い詰めたような顔で戻ってきた。マセルは気になってヌルの心を読んだ。だれかと話をしたのだろうが、それが気になっているようだった。
「お父さん。あの……偶像? って何?」
予期せぬ問いだったのでタミルノはヌルを見つめたまま少し考えた。ヌルは続けて尋ねた。
「お父さんはお祈りの時、だれに向かって祈ってるの?」
「だれと言って……それは、だいたいの場合クルだな」
「そう。ぼくはね、前はいつも会所にいるクルにお話ししてたんだ。でも、ここにはクルがいないから……思ったんだ。いつも目を瞑って、クルがいる感じ、と思ってお祈りしていたけど、そんなことしてもクルは知らないんじゃないかな」