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タミルノとヌルは宴の料理を次々に運んできた。マセルには馴染みはないものばかりだったが、何というか、とても豪勢に見えた。その間、住人達は立ち代りマセルにこの世界の様子を話して聞かせたが、マセルは混乱するばかりであまりよく分からなかった。とにかく誰もが新入りの到着を歓迎していることだけは分かった。
マセルは最初、ここは本当の地獄ではなく、いわば入り口に過ぎないのではないかと思った。あまりに豊かで平穏だったからだ。しかし住人達の考えはそれとは違った。
支度をしていたタミルノが戻ってきて座ると手招きしてマセルを隣に呼んだ。それを見た皆もそれぞれに卓を囲んで座った。タミルノは樽から茶酒を注ぎながら言った。
「おそらくはだ……俺たちが生前言っていた天国とか地獄ってのは一つじゃなくて無数の階層に分かれているんだ。今いるところはおそらく地獄の中でも一番住みやすい場所なんだろう」
マセルは住人達の心を読みながら聞いていた。タミルノやヌルはもちろんここに集まった住人達の中にそれほど極端な悪人はいないように思えた。それなりに悪癖や我欲のようなものも読み取れるが、どれもごく普通誰でも想起する程度のものであり、それはマセル自身も同じことだと思った。
すると現世で悪人だった者たちはどこに行ったのか。そう考えると確かにタミルノの言うことも見当外れではない。死んだ人間たちはその罪の重さによって無数に隔離されていて、それぞれに異なる環境が用意されているのかも知れない。
「つまりはここに暮らしてる俺たちは割と善人だったってことだ」
タミルノは冗談めかして笑った。マセルはタミルノが嫌いではなかった。時折悪ぶった態度をするが誰よりも息子を愛する憎めない男であることは分かっていた。
「そういうこと! もっと罪深いヤツらだって、のうのうと生きているんだからな」
住人の一人ががそう言った。マセルは作り笑顔で頷いたが「罪深い」という言葉に心が疼いた。ここへ来て、一人部屋の中でずっと思い巡らせていたことだが、マセルは自分が信仰上最悪の罪を犯したかもしれないと感じていた。
会衆を守るためにやむを得ないことと言って、クルを自らの意思で打ち壊すことに比べて一体何が罪だと言うのか。いや、これは本当に会衆のためだったのか。自分たちの命を長らえさせただけではないか。情に流され自己犠牲を気取った。どうせ俺には身内はいないからと……
「さあ!」
タミルノが急に大きな声を上げたのでマセルははっと顔を上げた。
「思うところはいろいろあるだろうが、とにかく今日はマセルの歓迎だ。これから長い付き合いになるんだ、よろしく頼むよ」
マセルはタミルノの気遣いに感謝した。そして今いろいろ悩んでもこの場を白けさせるだけだと思って無理に作り笑いをした。




