7
「きっと、そんなことはないよ」
マセルがヌルを諭すと、タミルノも同意した。
「そうだぞ。罪とかなんとか……そんなもの人間の解釈だ。自分を信じろ、ヌル。よく考えて、これと決めたら信じるんだ。そうすれば、決して間違った道には進まないからな」
タミルノの忠告を、ヌルは黙って聞いた。もともと……光源はぼくたちに与えられたもの。クルがくれたものだから、それをどう使っても悪いとは思わない。それに、別に悪いことに使うわけでもないんだ。悪いことをしようと思ってるんじゃない。なのに、なぜ。怖れる人がいるんだろう。何か、そんなことをするとクルが怒ると怖れている大人がいる。どうして、クルが怒るんだろう。
「得体の知れないもの、今までにない新しいことを試すときは、だれでも怖れを感じるんだよ。それは自然に起こることで、理屈じゃない。それは、弱いというのとも違う」
マセルがヌルの考えに答えるように言うと、タミルノが珍しく反論した。
「いや違うな。その怖れは、たぶん学んだものだ。小さな頃、知らぬ間に周囲の弱い大人たちから教わるのだ。そうするうちに、みんな臆病というのが知恵だと思うようになる」
「ふん。なるほどな」
マセルは、それもそうだと思い直した。
「ヌルよ。周囲のだれかが恐れをなしているとしても、それに合わせていっしょに怖れる必要はない」
タミルノはそういうとヌルの目を見てゆっくりと微笑んだ。
ヌルはその後しばらくの間、光源集めをしなかった。そして黙ってひとりで座って、大人たちをじっと見ていることが多くなった。
それと入れ違いのように、イリアエルはひとりで光源地帯に行くようになった。しかしそれは光源集めのためだけではなかった。
最初は太刀を入れやすい個所を探すつもりで見ていたのだが、その内に天光源の形状そのものが不思議に思えて面白くなった。あらためて考えると、イリアエルは天光源というものを本当にじっくりと観察した記憶がなかった。
天光源は、一見すると粗く割った大きな氷の塊を組み合わせたような姿で、ある意味植物のように自然に生えたように立っている。しかし、よく見ると一つひとつの光源の形はどれ一つとして同じではない。透き通るような色と角張ったところがあるのは共通しているが、あるものは瓦礫を堆く積んだような、あるものは天に向かって枝分かれしたような、他にも、まるで人間が作ったもののように整然と対称を成しているものや、まるで前衛的な芸術作品のように躍動的なものもあった。
とにかく、少なくともイリアエルにとって天光源はずっとそこにあるもので、もちろん貴重ではあるが、いつでも手に入る身近なものでもあった。他の者にとってもおそらく同じだろう、とイリアエルは推測した。
「やはり現世で言うところの自然物とは訳が違う。だがそんなこと、気にもならなくなっていたな」
もっと不思議なのは、この表面に付着している粉末のようなものである。光源の内部からにじみ出てくるのか、とにかくこの粉末のようなものは一度採取してもしばらく期間を置くとまた発生する。そのことはイリアエルも経験上知っている。
しかし、イリアエルはこの時ふと思い付いた。
「この地の万物はすべて天光源から作られる。俺たちはずっとそう思ってきたが……正確には違う。万物は天光源、ではなく、実際はすべてこの、天光源の表面に現れる粉……この粉の部分によって作られているんだから」
この粉末は当然に光源と同じものだと考えてきたが実際には確かではない……たとえばもともと空中に存在する目に見えない何かが、光源の表面で可視化して埃のように付着し、蓄積されているのかも知れない。