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イリアエルがいつも座っている場所へ戻ろうとすると、ヌルがそのまま後ろについて来た。あらためて思うと、ヌルがイリアエルと二人で行動するのは珍しいことだった。イリアエルの感じでは、ヌルはたいていタミルノと一緒に他の者たちに囲まれているか、マセルと二人でいるか、あるいは、ひとりで訳もなく走り回っている、そんな印象しかなかったのだ。
ヌルを振り返らずに、イリアエルは歩きながら言った。
「どうした? ヌル」
しばらく返事はなかった。イリアエルは光源を預けた後返してもらった自分の袋を地面に落としてから、その上に座り込んだ。すると、ヌルは袋を手に持ったままその横に座った。
「少し疲れたか?」
ううん、とヌルは首を振ってから、軽く笑顔を作って言った。
「ぼくってさ、ずっと大人にはなれないんだよね」
イリアエルは両手を頭の後ろにして、座ったまま伸びをしてから答えた。
「たぶん、そうだよな。でも、別にいいんじゃないか? みんな、ヌルがいてくれて良かったと思ってるぞ」
「それは、ぼくが子供だからでしょ? みんなが優しくしてくれるのは……分かるけど、なんだか、ちょっと」
「でもな、確かにヌルは子供だけど、でも、この地に選ばれてきたんだ。それがクルのお考えなんだろう。お前も立派な会衆の一員なんだ。タミルノも俺も、マセルも、きっとそう思ってるぞ」
「うん」
「マセルたちが言うには、ここは地獄なんかじゃなくて、むしろ、ここに来られるのは現世で選ばれた人だけなんじゃないかって……俺もそう思う。そうしたら、ヌルも同じだ。お前みたいに、子供なのにここにいるのは少ない。これはすごいことなんじゃないか?」
「うん」
とだけ言ってヌルは少しの間地面を見つめていたが、すぐにイリアエルの顔をまっすぐに見て言った。
「ぼく、何をしたらいいのかな?」
「お前は……そうだな。お前の思うようにすればいいんじゃないか? 光源を集めるのだって、とても役に立っている。今やってることは全部いいことなんだよ。そうやっていろいろ考えてみるのだって、良いことだと思うぞ。何でもいっしょうけんめいやるんだ」
イリアエルは普段見せたことのない慈しむような笑顔をヌルに向けた。
「うん。そうだよね」
「ああ。俺たちだって同じだ。それしかない」
二人は顔を見合わせてふふふと笑った。
「イリアエルさん。さっき光源は斬れるかもしれないって言ってたけど、どうやるの?」
「さあな。なんだかそんな気がしただけだ。だが、俺は何だかできそうな気がしてきたんだ。少し考えてみる」
「ぼく、おじさんに聞いてみよう。もっと丈夫な剣を作るにはどうしたらいいか。おじさんだったら知ってるかもしれない」
イリアエルはつい、いくら加工が達者でも光源を切り裂くほどの剣を作るなど無理だろうと思った。しかし、そうやってすぐに無理だと決めてしまうようではいけない、と咄嗟に思い直した。そうだ、剣技では実際、相手の剣のほうが良質でも技が上ならばそれを叩き折ることは難しくはないのだ。単に剣が良いことだけが重要なのではない。そのように反射的に諦めてしまうことのほうが問題だと自戒した。
「じゃあ、ぼくもっと、たくさん光源集めるからね」
「そうだな。ヌル、また二人で行こう」