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天国のマセル  作者: 中至
イリアエルの関心
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ヌルが駆けて行くとイリアエルがひとり蹲っていて、何かを書くときのように指で地面をなぞりながら一人で何かつぶやいていた。


「あ、イリアエルさん。いっしょに光源取りに行かない?」


ヌルは駆けるのをやめてイリアエルに近付いた。


「うん? ううん、そうだなあ」


イリアエルは考えを遮られて気のない返事をした。ヌルはよくマセルや他の大人たちを誘うのだが、しばしば体よく断られるので慣れっこになっていた。


「じゃ、僕行って来るね」


ヌルがまた駈け出そうとすると、イリアエルが呼び止めて言った。


「ちょっと待て……たまには、いっしょに行こうか」


ヌルは勢いよく振り返るとうん、と頷いた。


「イリアエルさん、さっき何してたの?」


二人は歩きながら話した。


「うん。技の手順をちょっとな……」

「ああ決闘ごっこの? またマセルとやるの?」


「いや……そうじゃないが」

「ねえ、僕にも教えてよ。技」


「ああ、いいとも。タミルノも、ヌルの相手をしてくれって。だけど、技を習うにはまず心と身体を鍛えないとな。技はその後だ」


ヌルは黙ってうん、と頷いた。

光源の採取を始めながら、イリアエルはヌルに尋ねた。


「ヌルはよく飽きないな。こうやって光源を集めるのは面白いか?」

ヌルはにこと笑顔になった。

「面白いかなあ? うん、面白いよ、やっぱり。それに、ぼく他にやることもないんだ……ねえ、イリアエルさん剣もうまいんでしょ? やっぱり、この光源ってどうやっても斬れないの?」

「うん、昔俺もそう思ったことがあるけど……」


最初の頃、イリアエルは何度もやってみたのだ。そして手元の感触としては斬れそうな気がしたこともあった。しかし実際にはどの角度を狙っても、同じ場所を繰り返し打っても、光源そのものは傷一つ付かなかったのだ。


イリアエルはいつの間にか諦めていたことを思い出した。本気……。


そう言えば……イリアエルは妙な気がした。そもそも天光源は、これは自分たちに与えられた、この地で唯一の「もの」である。もちろんクルによって供えられたのだ。私たちのために。ところが、それならばなぜ、なぜこのように、こんなやり方でしか採取できないのだろうか。こうやって表面をなぞって粉末状の部分を袋にかき集める方法しか。いったいこれに何の意味があるのか。


「いっそのこと、光源そのものがばっさり取れてくれれば」


だれでも、この地に来た者は最初そう考える。それがいつの間にか、もうそれは無理なことなのだと信じているのだ。しかし、本来ならそのほうが自然ではないか? これはいったい何の罰なのか。

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