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「心の深さ……か」
イリアエルと話した後、ナモクはまたいつものように思いに耽っていた。
「確かに、奥底に沈んでいる情念のようなものも時に垣間見えるのだ。近頃は……俺自身の中にさえ、まるで大勢の人々の声が呻きあっているかのようだ。
最初はまるで整理のなかったそれらが、最近ではやけに穏やかな纏まりを成しつつあるようにも感じられる。不思議だ……これがタミルノの忠告の意味だろうか? 儚き人の思いを調え……人と共に喜び、裁く者を裁く。俺の心そのものが、まるで統治に向かう一つの会衆のように」
以前のナモクはすべての思考や判断を避けることにずいぶん苦心していた。次々に浮かぶ思いや考えをひたすら頭から消そうとするのは不毛な作業のようにも思えた。
しかし、慣れるにしたがってナモクは、自ら力んでそれらを消し去ろうとする必要はないことに気が付いた。ただ心の奥底から勝手に浮かんでくる幾多の思いや感情を眺め、浮かぶままに遊ばせておくやり方を会得したのだ。そうしてみると、今ではそれはむしろ穏やかな愉悦をもたらす耽りとなっていた。
ナモクは、いつの間にかまったく喫煙しなくなっていた。手製の水煙草をどこにしまったか、思い出すこともなくなっていた。