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マセルはしばらくこの部屋にいて寝起きしていたが、この部屋には窓すらなく、今昼なのか夜なのかも判然としない。タミルノが次に来たとき、マセルは外出したいと告げようと思っていた。するとそれを察したかのようにタミルノが訪れて言った。
「もうそろそろ外へ出たくなったろう。これからみんなに紹介するよ」
マセルはここへ来て初めて外へ出た。
屋根裏のようだと思っていたが、外から見るとマセルがいた建物は石を組積した平屋建てだった。付近に立つ木々には葉がなく、ただ血管のように複雑な枝があった。人影はなく、遠くに隣家と思われる同じような建物がぽつん、ぽつんと立っているのが見えた。
赤土色の道をタミルノとヌル、そしてマセルが歩いていた。外は薄暗く、空はだだっ広く夜明けとも日暮れとも取れる色をしていた。ヌルの歩調に合わせてゆっくり来たので20分ほど歩いていると思ったが、空は変わらず夜明けとも日暮れとも取れる色のままだった。
タミルノの家の前まで行くと、おそらくタミルノが今日マセルをみんなに会わせようと考えたのが伝わったのだろう、すでに何人かの住人がマセルが来るのを知って集まっていた。
「こいつがマセルだ」
「マセルだ。よろしく」
マセルはよくは分からないが一応型どおりのあいさつをした。
「じゃあみんな入ってくれ」
タミルノの家はヌルと二人暮らしにしてはかなり広かった。そして住人達の様子から察して、タミルノは少なくともこの中ではリーダー的な存在で、みんなから頼りにされているようだった。
タミルノがみんなに、マセルがすでに人の心を読めるようになっていることを話すと、みんな大袈裟にほう、と感心して見せた。そして、ここの住人達は互いに心が読めることが分かっているが、それはむしろ日常的には面倒な場合が多いと言った。だからやはり現世と同じように口から出る言葉を用いているのだと……だが邪悪な発想や淫靡な妄想まで仲間に筒抜けであるのも事実だ。新参者の自分にはいきおい注目するはずだ。とにかくここの様子が分かるまでは警戒するに越したことはないだろう……マセルは住人達の話を聞きながらそう考えて、はっと気が付いてみんなを見た。
今考えていることもみんなに知れてしまうのだ。これでは余計な不信感を持たせてしまうと思った。だがタミルノは笑った。
「そんなに心配することはない、マセル。こいつらはみんないい奴らだ。それに全員クルの信仰者だ。安心しろ。まあ……気持ちは分かるがな」
他の者も笑顔でマセルを受け入れている。マセルはむしろ恥ずかしいような気持ちになって少しひきつった笑顔で頷いた。