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「俺は、芯が強くはない。それに優劣に拘ったりもしていないが」
「そうかな? 自覚していないとしても俺には見えているんだ。お前の中にあるのは、いわば差別だよ。お前は昔から常に指導的な、いや支配的な立場にいた。もちろん俺とともにな。それはお前が自ら望んだものだ。そしてお前は、そんな自分を常に守ろうとしてきたのだ。そういうのは、ふつう差別意識と言うのだ」
「もしそうなら、尚のことお前の腹心に相応しかろうはずがないだろう。それこそ心が弱いことの証ではないのか……そこには信仰も正義もないではないか」
「ふ、そんなことはないイリアエル。別にいいではないか。たとえ自分自身を守るためだったとしても。驕りでも、我欲でもいいのだ。そんなことは問題ではない。仮にお前が……もしそれが現世的な意味で悪だとしても、それがクルの前で罪だという話にはならない。むしろそれはお前にとって自分自身なのだ」
「今さら慰めてくれなくていい」
「いや、これは俺自身の問題でもあるのだ。そもそも俺は人間の目から見た良い悪いなどと言う議論はクルの意思と関係ないと思っている。そんな話で他人の信仰を咎めることはできない。クルは裁く者を裁くのだ」
ふとイリアエルは、ナモクがいつになく真面目に自分の考えを述べるので珍しいと思った。本拠地にいた頃には、イリアエルが何を言ってものらりくらりと、まっすぐに議論するのを避けているように思っていた。
「……どうした、ナモク。いつになく真っ直ぐに意見を言う」
ナモクは可笑しくなった。
「ははは、そうか。いや俺から見れば、むしろお前のほうが……久しぶりにまっすぐに話しているように思えるがな。ここにいた頃は、口数ばかり多い割にまるで煮え切らなかったからな」
「……俺のほうが呆けていたというのか?」
イリアエルはつい反論したくなったが、それでは以前と同じことになる、と思い留まって、心を鎮めようと意識した。
「呆けていたわけではないだろうが……つまり出し惜しみしていたのだろう? イリアエルよ、つまりお前も、本気で生きることを躊躇っていたのだろう」
「……躊躇って?」
やはり本気がどうのと……イリアエルは、ナモクもまた、マセルや、タミルノと同じことを言おうとしているように感じた。躊躇うと言って、いったい俺が何を躊躇っているというのだ?
「あるいは、今も躊躇っているのか……」
イリアエルは、何となくそう思った。