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ここまではイリアエルにも分かったが、ナモクはまた前のように表層に思考を現さなくなったのでイリアエルにはその先が読めなくなってしまった。
「ちっ、またか……」
イリアエルはつい子供のように舌打ちしながらも、仕方なく探り続けた。しかし、その時、ナモクの中にタミルノの像がはっと浮かんだ。ナモクがタミルノの心を読み始めたのだ。イリアエルは慌ててナモクに集中した。タミルノのことを探っているなら、当然ここに一緒にいる自分のことも気にするだろうと思ったからである。
ナモクは何か嬉しそうだ。タミルノの心境の変化を察して何か喜んでいるように思えた。そして、ナモクの心にイリアエルの像が浮かんだ。
「来る!」
イリアエルは、次の瞬間ナモクがイリアエルの心を読むに違いないと踏んで、すぐに心の中でナモクを呼んだ。そしてさらに強くナモクの心に意識を合わせるようにすると、ナモクの心に浮かんでいるイリアエルの像の、その奥に薄っすらと重なるようにして、もう一人のイリアエルの像が浮かんでいるように感じた。
その、奥の方のイリアエルは今のイリアエルではなく、まだ二人が生きていた頃の、まだ幼顔のイリアエルであった。
「ナモク!」
イリアエルはつい声に出して名を呼んだ。涙こそ流れはしなかったがイリアエルは目が充血したように熱くなった。ナモクの心に幼い日のイリアエルがあることの意味を自覚的に解釈したわけではなかった。しかし、それだけでイリアエルの中の、ナモクへの疑念、不信、邪推、そんなものが一度に溶解したような感覚があった。
「……イリアエル?」
「ナモク!」
互いが相手の心を見た。