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「ちっ。結局。なんで俺はいつも差を付けられる? どうして俺だけが格下のような扱いをされなければならん? タミルノ。まさかこれもクルの御意思と言うんじゃあるまいな?」
タミルノは苦笑いするようにイリアエルを見るとそれを否定した。
「それはないと思うぞ? そりゃ単にお前の気質だろう? 何でもクルのせいにするんじゃない」
「くそ! 一体なんだってんだ」
イリアエルはまた地面にごろんと寝た。薄暗い空に向いて遠くナモクの姿を思い浮かべた。
「ナモク……ナモクよ……」
イリアエルは心の中でそっとその名を呼んでみた。
今タミルノにそう言われたので、イリアエルにも今ナモクがクルに祈りを捧げているのだろうということは感じられるようになった。ただし、それでもやはり具体的な内容は読めなかった。
タミルノは寝転んで空を眺めているイリアエルの脇に腰を下ろした。
「イリアエル。お前はまだ言葉だけ使って考えている。それに自分の感情を結び付け過ぎている。おそらく、だから読めないのだろう……」
イリアエルは、もはや理解の範囲を超えていると感じて大きく息を吐いた。
「……タミルノ。俺には分からん。で、結局ナモクは一体何を考えているのだ。お前たちには分かってるんだろう?」
「俺たちだって、人の心のすべてが見える訳じゃない。まあ、あえて言うなら」
「何だ?」
「つまり、あいつの心にあるのは会衆の永続。クルの世の永遠の継続だ。それがナモク自身の心だ。ナモクだけではない。言うなら我々がナモクの心を作ったのだ。ナモクの心は今やナモクだけのものではない。そしてこれはクルの御意思に結び付いているはずだ。俺はそう信じる……」
会衆の、永続?
イリアエルは心の中で復唱するようにそう思い浮かべた。タミルノは諭すように続けた。
「必要なのは教義や布教ではない。世々に渡って動じない会衆。地に永久に続く力を内包した揺るぎない会衆こそが必要なのだ」
「……そのための統治、ということか?」
「そうだ」