ナモクの本意 1
タミルノはイリアエルの心が思いがけず大きく変化していることを不思議に思った。それにマセル……あいつはイリアエルと拳を交えることでイリアエルがこのように考え始めることを予測していたのか?
「忘れていたのは俺の方だったのかも知れない」
イリアエルは少し落ち着いて呟いた。
「考えてみれば、統治だと躍起になってみんなの想いが見えなくなっていたのは俺のほうかもしれないよ。確かに……」
そもそも、地の人々を統治して動かそうなどと、その考えそのものが人間の解釈だとも言える……ナモクは予めそのことに気が付いていたというのか。それにタミルノやマセルも。
「いや俺たちも初めからそう考えていたわけではない」
タミルノはそれだけを言った。イリアエルはタミルノの心を探った。
「おそらくナモクさえはっきりと何か考えがあるわけではないだろう。おそらく、俺たちは何か、心のもっと底の方から湧き上がってくる何かに動かされているだけなんだ。それは自分自身でもはっきりと見えないのだ。ただ、そうやって湧き起こってくる思考や感情を信じるしかないんだろう」
『……』
ナモクを見ろ。煙に包まれたようにぼんやりしているようにも見えるが、その内に秘めた心をよく感じてみろ。少なくともあいつは昔も今も権力や我欲になど憑りつかれていない」
イリアエルはタミルノの心から気を逸らすとそのまま目を瞑り、今度は遠く本拠地にいるであろうナモクの心を静かに探った。本拠地を離れてから長い間あえて見ないようにしてきたので、そのためには少し意識して自分の心を鎮めなければならなかった。