11
「しかし、ナモクは俺の手を取って真面目な表情で言ったのだ。
『イリアエル。人と争うのは嫌いか? ……でも、お前強いよ。それにもっと強くなる』
思いがけないナモクの言葉に、見ていた誰もが、何より俺自身が一番驚いた。
そして、それ以来誰も俺をからかわなくなった。それどころか誰も俺と決闘ごっこをしようと言わなくなった」
その後イリアエルはひとり格技の腕を磨くようになった。だれに勝つためというわけではない。ただ、ナモクの背中を追うように、ナモクの、その言葉を証明するかのように……
イリアエルは右腕を枕に、膝を曲げてうずくまるように地面に横になっていた。そこにタミルノとヌルが近付いて言った。
「眠っているのか? イリアエル」
タミルノもヌルも本当はイリアエルが眠っていないことは分かっていた。ただもしイリアエルが今話したくなければ機を改めるつもりで、返事をするか確かめたのだった。
「いや?」
イリアエルはそう答えて半身を起こした。
「傷は大丈夫か?」
「ああ、たいした怪我はしていない。まだ痛みは残っているが、これくらいは平気だ」
「そうか……」
イリアエルは無表情にそう言った。だが脇でじっと自分を見つめているヌルに気が付いて笑顔を作った。
「タミルノよ……ナモクは、俺の手の届かないところに行ったのか」
「そうではないよ。そうじゃないイリアエル。ナモクの心をよく見てみろ。ただ感情のままにあいつの心を見ろ」
イリアエルはその心を見るまでもなく涙が溢れてきた。分かっている。初めから分かっていることなのだ。互いに兄弟のいないナモクとイリアエルである。ずっと慕い、後を追い続けた唯一の男、それがナモクなのだ。
たとえ永遠の時を生きても互いの思いを忘れることなどない。それは初めから分かっていることだったのだ。