10
イリアエルは少しの間ただぼうとしていた。あちこちに鈍い痛みがあるが、たいしたことはない。しかし……あのマセルの躊躇ない攻め。あれはもう武闘とは呼べないほどに単純な手順。あれは計算なのか? 同じ手順だが、打突の力強さがまったく違うことを見切れなかった。
あんな奴だとは思わなかった……その内にイリアエルは眠ってしまった。
起きてまたぼうと思いに耽る。
実はイリアエルは生前、決闘ごっこが苦手だった。できれば避けたかったが、どうしても義務感のようなものに押されて仕方なくやっていた。負ければ口惜しさよりも虚しさが先に湧き、勝つことがあっても嬉しくはなかった。どちらにしろ苦痛でしかなかったのだ。
ナモクはその頃からすでに子供たちの中では中心的な存在で、そもそもイリアエルの力量では挑む機会さえない相手だった。ところがその日、いつも尻込みするイリアエルをからかい半分で仲間たちが煽り、あろうことかナモクと決闘することになってしまったのだ。
「俺はあの時、ナモクと対峙しただけでもう泣きそうだった……思った通り身体が委縮して、闘うどころではなかった。周りで囃し立てている奴らを恨めしく思った。
予想の通り、俺はほとんど一方的にやられた。ナモクはなぜかまったく手加減なく打ってくる。ナモクもまた俺を軽く見ていいようにあしらっているのだと思うとまた虚しさがこみ上げた。
俺はただ泣き顔を見せないようにすることだけに必死だった。しかし、結局力なく地面に尻餅をついて、まいった、と口にするとどうしても勝手に涙があふれてきて俺は俯いて無言のまま泣いていた。
周りで嘲る仲間たちの笑い声だけが聞こえた」