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マセルはなおも酷い言葉を吐き続けたが、イリアエルはもはやマセルの言葉に反応しようとはしなかった。
「イリアエル……おい二人とも」
タミルノは小さく呟いた。イリアエルは鋭い眼つきで一瞬タミルノを見て、それから言った。
「分かっている、タミルノ。こいつは、俺を挑発しているんだ。そうだろ? マセル。お前、俺とやろうって言うんだろ?」
マセルはふと笑った。
「ああ、口で言っても分からないだろう、直接教えてやる。弱虫」
「ふ、じゃあ教えてもらおうか? 決まりは?」
「そう……お前のほうが弱虫だから、そっちに合わせてやる」
マセルがあくまで見下すように言うと、イリアエルも不敵に笑った。
「じゃあ……頚椎と膀胱は無しだ。まいったと言ったら負けでいいな?」
「ああ。目はいいのか?」
「俺をだれだと思っているんだ。マセル、俺の目に当てられると思ってるのか?」
二人ともわずかに腰を落とした姿勢でじっと動かなかった。
タミルノとヌルは少し離れて二人の様子を見ていた。そしてタミルノが今心配しているのはむしろマセルのほうであった。
もちろん実際のところは見たことがないが、タミルノは何度かアジョ派の者たちが話すのを聞いたことがあったからだ。イリアエルは格技の腕だけならナモクをも凌ぐ達人で、その腕は会衆の外までも聞こえるほどだったという話だ。今のイリアエルからは想像がつかないだろう。マセルはきっと知らないのだ。
知って挑もうというのならもちろん無謀だ。マセルがどの程度できるのかも分からないが……いや、もし本当に二人とも強いのなら余計に危険ではないか?
止めるべきかもしれない……一瞬「死」という言葉が過った。確かにこの地ではいまだかつてだれも死んだことがない。しかし、それは平常の場合であって、たとえば自ら積極的に死に至るような行動をとった時、それでも命が守られるのかと言えば定かではない。
しかし、タミルノの心配をよそに、ヌルは興奮した様子で、はしゃいで飛び跳ねながら大声で言った。
「わあー、決闘ごっこだ! 二人とも、がんばれー」