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タミルノはイリアエルの表情が変わっていることに気が付いて驚いた。動揺は消えていた。いつものイリアエルではない。敵意を剥き出しにした、獲物を見るような鋭い眼だ。それでもマセルは罵ることをやめなかった。
「だれだと? ナモクがいないと何もできない、甘ったれのイリアエルだろ?」
タミルノは咄嗟にまずいと感じて二人を制止した。
「やめろ! 二人ともやめるんだ」
しかし、見るとマセルも立ち上がってイリアエルを正視した。二人は正面を向いて対峙する姿勢になった。
「イリアエル、違うのか? お前ナモクに文句があるのに正面切って言えないんだろ? 心の中でうじうじ悩んでいるだけの、弱虫、甘ったれ」
「……」
イリアエルはもはや言い返そうとするよりも今にも飛び掛かりそうな表情でマセルを睨み付けている。
「おい、マセル……?」
マセルのそれらしからぬ物言いにタミルノのほうが声をかけた。確かに、そういう言い方もできるかもしれないが、しかし当のイリアエルにすれば、相手が長く従ってきたナモクだけに、複雑な思いがあることは……いや、当然そんなことはマセルも分かっているはずだ。なぜそんな突き放すようなことを、いや、それはもう突き放すというよりも完全に相手を見下した言動だ。タミルノは信じられなかった。
「タミルノ、黙っていてくれ。こういう奴は一度思い知ったほうがいい。優しくしてやる必要などないぞ」
タミルノは逆にマセルに制止されて割って入ることを躊躇った。そして、直後思った。マセルは、あえてイリアエルの気持ちを逆なでするような言葉を吐いているのだと。何か意図があってそうしているに違いない。タミルノはマセルに任せようと考えて引いた。
「イリアエル、もうだれも味方になってくれないぞ。ひとりぼっちだな。いや、お前は初めから、仲間など一人もいなかったんだろ? そうだろ?」