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マセルはタミルノに任せてじっと黙って聞いていたが、イリアエルが話を切り上げようとすると苛々したような口調で言った。
「……お前などが、いくら考えても分かるはずもないのだ」
イリアエルは最初マセルが何を言っているのか飲み込めなかった。一瞬置いて自分が否定されているのだと把握したが、怒りを現わす機を逸して呆気に取られた。
それ以上に驚いたのはタミルノであった。タミルノは慌てて取り繕った。
「待て……本気で、本気で考えればイリアエルだって」
しかし、マセルはもう一度きっぱりと言った。
「イリアエルに、本気で物を考える力などない」
「な!」
今度はイリアエルもはっきりと分かった。自分が完全に見限られていることを。脚のほうから腹にかけて敵意のような怒りのような感覚が登ってくるのを感じたが、同時に頭では、マセルがなぜ突然そんなことを言うのか、その理由を必死に見つけようとしていた。
イリアエルにはその余裕がなかったが、タミルノはすぐにマセルの心を読んだ。マセルは一体何を考えている……特に感情的になっているわけではない。厳しい口調だったが、心に怒りや苛立ちは見られなかった。本気という語が読めた。それに、リギル? リギルとはだれだ? タミルノに見えたのは、断片的ないくつかの言葉と、リギルという名だけであった。
「みんなが探索のために各地に分散している、こんな時に血迷って本拠地の秩序を乱すような身勝手なやつだ。こいつは」
イリアエルは口元を歪めながら必死に反論の言葉を探したが見つからなかった。
「そして、自分の不甲斐なさを直視できないくせに、ナモクの批判ばかり考えているのだ。情けないを通り越して哀れだな。やはり、副統治長になどなるべきでなかったのだ。この地の会衆に属すること自体腹立たしい」
タミルノも制止する言葉が思い付かなかった。それよりも、あのマセルが、これほど完膚無いほどに他人を罵ったことが信じられなかった。
「おい! イリアエル、お前はとっとと本拠地に戻ってせめて静かにしていろ。こんなところまで出張っても、足手まといになるだけだ」
マセルは言い放つとイリアエルから目を逸らして俯いた。
「黙れ……黙れ、マセル……」
イリアエルは、憎しみのような感情が身体じゅうを締め付けるように感じて両手の拳をきつく握りしめた。イリアエルは腹から絞り出すような声で言った。
「黙るんだ。お前に俺の何が分かる……新参が、知った風な口を聞くな。お前、俺をだれだと思っているんだ……」