4
「お前の言う、その、ナモクの力とは何だ? 確かにあいつには人を圧する凄味がある。それに、人を導く術も心得ている。しかし、それは以前のナモクだ。今のあいつには、その熱意がないのだ。いくら力があっても、それを駆使する意思と動機がなければ、その力は無に等しい」
「イリアエルよ……この地の会衆で、その長として必要なものがあるとすればそれは、強制や威圧の力ではない。それは俺たち全員に、託すに値すると認めさせる力。それは現世的な支配力と相容れない、何か別の性質を持つ圧倒的な力なのだ。ナモクはそれを持っている」
「それは……ナモクがクルに使わされた使者だということか? 預言者か?」
しかし、タミルノはイリアエルの誤解を察してふと笑った。
「違う。そうではない。もちろん、クルを置いてナモクを信仰しろという意味ではないぞ。クルの他に神はいない」
「じゃあ、じゃあ何を信じるのだ? ナモクの何を信じろと言うのだ」
「つまり……本気を。たとえ見えないとしても、ナモクが常に本気であることを、だ。この地ではそれができる」
タミルノは語りながら自分でも不思議な気がしていた。確かに、もともと自分が考えていたことでもあり、マセルと話したこととも重なっているが、自分ながら、このように言葉でそれを口にしていることが不思議だと思った。話そうとすると言葉が現れ、その言葉を声に出し、それを内心で反芻すると今までよりもさらに確信は深まり、明確になって行くように感じた。
「イリアエル。想像するに、お前はたぶん、ナモクに近過ぎたのだ。俺たちと違って、お前にとってナモクは特別な存在なのだろう? だから、余計に認めにくいのかもしれない。まあ、それはお前のせいじゃない」
イリアエルは、まだ全部を理解できたわけではなかったが、少なくともタミルノやマセルが言っていることは単なる願望や妄想ではなく、自分たちなりの経験からくる根拠と、互いの思考や議論を通して得た一定の結論なのだろうと思った。
それに、もちろん軽々に判断できるはずもないことだが、もしかするとそれは自分が最もわだかまっているものをいつの間にか霧消させてしまうかのような……タミルノやマセルの考えには、何かそんな望みを抱かせるような甘美さが漂っている気がした。
「分かった……いや、飲み込むにはまだ疑問が多すぎる気がするが。しかし、お前たちの言うこともまったくの妄想というわけでもないようだ。少し考えさせてくれ。そしてまた近いうちに話そう」
イリアエルは、まず自分なりに話しを整理する必要があると思った。そして、明らかな疑問点を晒してぶつけ、そんなことを繰り返しながら納得できるなら、その時聞く耳を持とう、というふうに算段して言った。
タミルノは、とりあえずイリアエルがおとなしく引いてくれたので安心した。それに、これでイリアエルにもマセルと接する理由ができたと思った。一気に何かする必要はない。静かに、少しずつイリアエルの抱える問題が消失していけばよい。
しかし、その時マセルが全然意図しないことを言い出したので、タミルノは驚いた。