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天国のマセル  作者: 中至
マセルの挑発
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「ナモクは今、だれよりも真摯に信仰を見つめているのだ。俺たちはそう信じる」


イリアエルは思わず反論した。


「ばかな。ナモクの心を見ているのか? 俺は今まで、いつもあいつの心を確かめながら従ってきたんだ。あいつはもうだめだ。見えるのはいつも我執と保身だけなのだ。怠慢だ。堕落だ。俺はずっと見てきたから一番分かっている。あいつは、もう昔のナモクではない」


マセルは何も答えず静かに首を横に振った。イリアエルは、マセルがもう話にもならないというように自分を見下しているのだと感じて仄かに動揺した。


実は、イリアエルはこのように頑なに反論しているような形を取りながらも、内心では少しずつマセルの論に魅かれつつあった。


それに、いつも一人自分自身の中で答えを見つけようとする性質のあるイリアエルにとって、このように自分の主張や湧き上がる疑問をそのまま投げることができる、つまり、そのようにしたいとイリアエルに思わせるような相手というのは実は珍しかった。


ほとんど無自覚ながらも、イリアエルはマセルと議論すること自体に何か未知の新鮮さのようなものを得ていたのである。それで、マセルがもう議論は無駄だとばかり黙ってしまったのを見て、見捨てられたような気持になった。


タミルノはそのイリアエルの僅かな心理の推移を見逃さなかった。タミルノからすればそれはある意味期待した通りだからである。やはり……イリアエルはマセルに接することで変わる。今のイリアエルの心に見える動揺は、まだ淡いがタミルノの期待が見当外れではないと思わせるに十分であった。


しかし……マセルのほうはもうイリアエルの物言いに辟易して語る気を失っているようだ。タミルノは仕方なく話の流れを引き受けて答えた。


「イリアエル、確かに昔のナモクではない。だがそれは、あいつが堕落したからではない。だが、おそらくそれはナモクの心を読んでも分からない。あいつは表層の意識で思考することを避けているからだ」

「……?」

「ナモクの心は今やナモクだけのものではない」


イリアエルはタミルノが何を言っているのかあまり分からなかった。タミルノはしかし続けて言った。


「しかし、それを確かめようとしても無駄だ。俺たちが読めるのは人が意識的に表層に現した思考や感覚だけだからな。その心底まで見透すことはできない。だから……信じるしかない。信じるに足ると、願うしかないのだ」

「信じるだと……?」


「そうだ。ナモクを信じるのだ。そして、やはりこの地でそれを託すに値する力を持つのはやはりナモクしかない。たぶん、あいつは初めからその役目を負ってこの地に復活しているのだ」


イリアエルは漠然としか理解できなかったが、タミルノが言った「信じる」という言葉に引っかかった。事によっては、それはクルの名の下に人間を信仰するという罪を犯すことになると咄嗟に疑ったからである。

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