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「そうやって頑なになるな。イリアエル」
タミルノは諭した。
「良いのだ。別にお前は、お前の信じたようにすれば。認めなくてもいい。ただし、お前が……本気でそう信じるならば。つまり、それこそ、お前自身の信仰そのものだということなのだ」
イリアエルは、つい感情的になっていることを自覚して、落ち着こうと俯いて息を吐いた。それから静かに言った。
「……みんながそれぞれに勝手に、自分の信仰だと言って人間の解釈を持つようになれば、何のための統治なのだ」
タミルノもそれに明確に答えることはできないと思った。そう言ってしまえばそうなのかもしれない……統治など、必要なかったのかも。
しかし、それでも、今まで俺たちは統治に意味があると思って、みんな賛同してきたのだから、まったく無意味だったとも言えない。ここに至る過程では必要だったのではないか? だが、それならば、どうする? これからどうすれば良いのだ。
「それに……もし、人々がそれぞれに考える信仰が、ナモクのそれによって否定されたらどうなるのだ? 不統一を解決する力がなければ統治は崩壊するではないか?」
イリアエルは、タミルノが内心自分でも迷っていることに気が付いて追い打ちをかけるように続けた。……見ろ、そんな考えはおかしいのだ。破綻している。イリアエルはもう議論に勝ったような気分になって虚ろな笑顔でタミルノを見ていた。
しかし、二人のやり取りを黙って聞いていたマセルが、確信あるようにきっぱりと言った。
「そんなことにはならないのだ。イリアエル」
「何?」
「ナモクが本当に真摯に考え続けている限り、俺たち一人ひとりの信じるところに矛盾は生じない。それが本気ということだ」
「だからそんな夢みたいなことが起こるはずが」
「現世の感覚ではあり得ないように思えるかもしれないが、ここではそれが理想でもなんでもなく、現に起こるはずだ。いや、もう現にそうなっていると言ってもいい」
イリアエルは思い出した。天光源が発見された時、会所で起こった不思議な顛末を。多くの者がナモクに逆らわず、非難もせず、ただ任せると言ってその場を去った。あれは……むしろ、私心に惑ってそれが見えなくなっていたのは、この俺だというのか。
「それをクルの御意思と呼んでもいいし、初めからそれが自然なのだと言ってもいい。とにかく、お前が何に思い煩っていようが勝手だが、この地はそういうところなのだ。会衆が崩壊することは絶対にない」
イリアエルはどうしても俄かに納得することはできなかった。それ以前に、このマセルという男は、何を根拠にそんなことを断定できるのだ。人間の解釈だ。
「お前たちはやはり、あれで良いというのか? 今のナモクは、会衆の長として真摯に努めようなどと微塵も思っていないのに。何も前には進んでいないと言うのに」
「いや……違う」
マセルはきっぱりと否定した。