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ただ明らかに違う点が一つあった。
「何か必要なものがあったら遠慮なく言ってくれ。まあ……言わなくても分かるがな」
タミルノはマセルに初めて会ったときそう言った。マセルは特に違和感なくその言葉を受け取り、
「ああ、すまない」
と答えた。しかし、その後でヌルが言った。
「マセル? どうして言わなくても分かるか、分かる?」
マセルはその質問の意味が分からなかったので答えずにいるとヌルはおかしなことを言い出した。つまりこの世界にいる人間たちが互いに言葉を交わさなくてもある程度意識を澄ますと相手の心が読めてしまうということだった。マセルは最初それを本気にせず笑っていたが、ヌルがしつこく言い張るのでまさかと思ってタミルノに聞いてみた。
「確かにヌルの言うとおりだ。ここではみんな筒抜けさ」
タミルノまでがそう言った。マセルはまだ半信半疑だった。その様子を見てタミルノはヌルに言った。
「ヌル、俺が出かけてる間、お前マセルと一緒に遊んでな。人の心を読むやり方をマセルに教えてやってくれ」
「あ、いーよ!」
ヌルは元気に答えた。
「まあ特に訓練なんかしなくても、ここにいる奴らはみんな自然にそうなる……それより、そもそもこんな力があってもここじゃ何の役にも立たないがな。まあヌルの相手をしてやってくれよ」
タミルノはマセルを見て笑った。
タミルノが出かけると、マセルがまだ疑っていると見て、まずヌルは次々にマセルが考えていることを言い当てていった。あまりに当たることが多いのでマセルも信じざるを得なくなった。
次にマセルはヌルを相手に心が読めるかやってみた。最初は自分の考えかヌルの心なのか混乱するような感じでよく分からなかったが、ヌルが飽きずに付き合ってくれたので少し慣れるとマセルにもある程度意識的にそれができるようになってきた。
マセルは、今度はヌル以外の他人の心が読めるかやってみた。まだ一度もこの部屋から出たことはないが、タミルノたちの様子からするとこの辺りは集落のようになっており、ある程度の数の人が住んでいるはずだ。だれかしらの心が読めるのではないかと考えた。しかしタミルノとその息子ヌル以外の者では心を読むことはできなかった。