6
イリアエル自身はマセルと直接にはあまり関わったことがない。と言うより、マセルはそもそもだれに対しても愛想もそっけもない。いつもタミルノやヌルと一緒にいるから顔を合わせる機会こそ多かったが、イリアエルから見ればどちらかというと絡みにくい男だ。もちろん、タミルノは一目置いているようだが……
「マセルが何だと言うんだ?」
イリアエルは、しかし、それよりも自分が別働隊の一平卒になるということのほうが気にかかった。
「あからさまな悪意は感じられないが、あんな言い方はタミルノらしくない。何か考えているに違いない……自ら副統治長の地位を捨てて勝手な行動をした帰結を思い知らせようというのか? それであえてマセルの配下に置こうというのか?」
イリアエルは推測した。しかし、タミルノはこんな作為的なやり方を好む男でない。むしろ……
「もしかすると、これもナモクの意向なのか?」
イリアエルはあえて久しくナモクの心を読まないようにしていたので憶測するしかないが、ナモクが何らかの意図でタミルノに指示を出したと考えるほうが自然だと思った。
しかし、実際にはその憶測は外れていた。タミルノ自身が、イリアエルが抱える問題をそのままマセルに投げようと考えていたのである。
タミルノはイリアエルに意向を伝えた後すぐにマセルのところに戻った。
マセルはいつものようにヌルと一緒にいて、タミルノの姿を見つけるとマセルよりも先にヌルが勢い込んで言った。
「お父さん! 僕も探索に行きたい。マセルといっしょに行ってもいい?」
しかしタミルノは素っ気なく答えた。
「いや、今回はだめだ」
「ええー? どうしてー」
ヌルは大げさにすねて見せたが、タミルノが全然取り合わないので早々に諦めた。次に、マセルが問い質すように言った。
「それにしても、急な話だったな」
「ああ、前もって相談してほしかった……か?」
タミルノは少しからかうように言った。マセルは軽く鼻で笑って返した。
「いや? それが統治の秘訣……なんだろ?」
「ふ、お前聞いてたのか?」
「前にナモクからな」
「ああ、そうか。じゃあ後の探索はマセル、お前の考えで進めてくれて構わない。行こうが戻ろうがこちらは何も指示しないから好きにやってくれ。と、それからな、今度の探索にイリアエルも加えようと思う。それで、さっき伝えてきたところだ」
「イリアエルか……まあ、お前の心がそう命ずるなら、俺は従うまでだ」
「うん、もちろんはっきりした当てはないが。イリアエルが何かを掴むとすれば、それはお前からだという気がするんだ」
「そうか? 俺は別に……まあ、よく分からんが、いずれにしろ、お前やナモクが何か言ったところで、あいつは受け入れにくいだろうな」