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天国のマセル  作者: 中至
イリアエルの誤算
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親しい者たちはイリアエルを囲んで、本拠地や他の拠点の様子などを聞いた。また、イリアエルがここへ来ようとした経緯なども確かめたが、実際のところはあらためて聞くまでもなくイリアエルの心から見て取れる通りであった。だれもが興味に任せて細々と尋ねるが、イリアエルに意見や忠告をすることはなかった。また、これからどうするのか、何をしようとしているのかと問い質すようなことも意識して避けていた。


「イリアエル、少し眠るか?」

「いや? 別に眠くはないし、そんなに疲れているわけでもない」

「そうか? なら、光源を見に行くか? どうせだから、みんなでいっしょに行こう。ついでに少し採ってくるか」


それから、イリアエルはしばらくその仲間たちと行動を共にした。他の者たちもイリアエルに気さくに接し、だれも咎めたり詮索したりしなかった。タミルノも別段何も言わなかった。イリアエルは他の拠点でも同じようだったので、きっとあらかじめ配慮するよう申し合わせてあるのだろうと思った。


集まった各隊の者たちはとにかく物資を蓄えることを目指していたが、集められる光源の量が限られているので、イリアエルが到着した時点でも設備と言えるようなものは何も出来上がっていなかった。


まず天光源を大量に保管するための容器が必要だが、それ自体を作るためにも大量の天光源を費やさなければならない。後は身に付けているものや、ここまで持参した道具などの修繕が優先された。それに、とりあえずの水と食料に当てる分は別途保管されていた。早く日用品や拠点らしい寝所などを調達したいが、それが可能になるのはずっと先のことだろう。


イリアエルは、他の者と同じように寝て起きると、光源の採取を手伝ったりして過ごしたが、それ以外には特にすることもないので誰彼かまわず歓談して過ごすことが多かった。持参した各拠点の配置図を見せるとだれでも興味深くそれを眺めた。最初は緊張していたが、イリアエルはすぐに、まるで最初からここにいたかのように打ち解けた。


ちょうどその機を見計らったかのように、タミルノはまた全員招集の号令をかけた。さらに何隊かが到着したので前に全員が集まったときより若干人数は増えているはずだが、それでも百人に満たないほどと思えた。


前と同じく、主だった者を取り囲むように座っている人々に向かって、タミルノが大声で言った。


「イリアエル! いるか? ちょっとここに出て来てくれ」


イリアエルがここにいることはすでにその場の全員が知るところであったが、あらためて呼ばれるとイリアエルは少し緊張した。仲間たちといっしょに座っていたイリアエルが立ち上がると、付近にいる者たちが振り向いて注目し、出やすいようにずれて道を空けた。イリアエルが少し険しい表情でタミルノのそばに立った。


「イリアエルがここに来た件だ。ナモクから指示があったんで一応伝える。このイリアエルは、今日をもって、統治会副統治長の任を解かれることになった。同時に、今日からはここにいる全員が一隊として編成されることになった。イリアエルもだ。そしてこの隊の長は俺だ。以上が統治長からの正式な辞令だ」


事実上すでに分かっていることなので別にだれも驚かなかった。ただし、当のイリアエルだけは少し驚いた。そもそも正式な辞令などというものを出す制度自体ありもしないのに、ナモクがわざわざタミルノを通してそれを告示する意図が思い当たらなかったからだ。タミルノの表情からは何も分からない。心を読んでみたが、タミルノはただ淡々と伝達しているだけのように思えた。タミルノは続けてこう言った。


「次に、これは俺からの指示になるが、今後本隊は分担して拠点の構築を急ぐ。今は各自に任せていたが、これからは少し計画的に光源の採取と、それから、何をどれくらい生産するかを決めようと思う。それとだ」


タミルノは一度座って聞いている者たちを見回して、続けた。


「ここからさらに足を伸ばして探索を続けるための別働隊を編成する。その選任は俺が行う。が、その隊の長はマセルにする」


今度は少しざわめいた。

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