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イリアエルがすぐ近くまで来ていることはすでに分かっていたこともあって、迎える人々の態度は大方落ち着いたものだった。もちろん、もともとアジョ派の中心にいた仲間たちもいて、彼らは久方ぶりにイリアエルと会えることを純粋に喜んでいるが、なぜか一番張り切ってイリアエルを出迎えたのはヌルであった。
「イリアエルさーん!」
ヌルは、少しずつ近づいてくるイリアエルの姿を他のだれよりも目敏く見出すと、大声で呼びながら駆け寄って行った。
声に気が付いたイリアエルは、それがヌルであることが分かると大いに安堵した。実は内心、いったい何と言ってタミルノたちに顔を見せたらいいのかと緊張していたので、イリアエルはヌルが先に迎えに出てくれたことを好都合だと思った。
「おおお、ヌルー。元気だったか?」
「うん。イリアエルさん、みんな待ってるよう」
「そうかあ、ありがとな」
ヌルはイリアエルの手を取って引っ張るようにして歩いた。その屈託のない笑顔を見るとイリアエルは何かとても嬉しいような、何か感謝したいような気持になった。
反面、不思議にも思った。確かに今までヌルとは何度も顔を合わせてはいたが、かと言って遊び相手をしてやったこともないし、それどころか直接にじっくり話した記憶もそれほどないのだ。なのに、なぜヌルがこれほど自分を歓迎しているのか思い当たらなかった。
しかし、今はヌルの好意を素直に受けて、とりあえずタミルノたちに会う気まずさを避けたかった。そしてヌルに案内されるままに歩いて行くと、あちこちに人の姿が見えた。何か作業している者や、数人集って談笑している者がいたが、ヌルとイリアエルが通り過ぎても、特にだれも近付いては来なかった。
そのまま進んでいくと、他よりも多く人の集まっていて、近付くとタミルノの姿があった。その後ろにいるのはかつてアジョ派に属した仲間たちであった。ヌルはイリアエルの手を引いたまま近付いた。
「よお、イリアエル。やっと着いたか」
「副長、遠路ご苦労だったな」
タミルノより先に仲間たちが競ってイリアエルに声をかけた。イリアエルを取り巻いた仲間たちに押しやられるように、ヌルはイリアエルの手を離して、今度はタミルノの隣に来て手をつないで、その様子を見ていた。
ひとしきり歓談する様子を見て、タミルノは声をかけた。
「イリアエル、とにかくゆっくり休めばいい。また後で話そう」
イリアエルがそっけなく頷いたのを確かめてタミルノはヌルを連れてその場を離れた。