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「だが……だからと言って仮に自分がただ自分の主張を強く訴えたとしても、おそらくいつもの通りそれはナモクに一蹴されただろう」
とイリアエルは思った。
ナモクは自らほとんど動かず、具体的な指示を出すこともあまりない。それでいて、一方では他者の意見を考慮せずに独断で決めたことも多い。
会衆は原則的にはもともとアジョ派の中で培われた規則を流用していたはずだったが、実際にはナモクは一存でいつの間にか変更していることも少なくなかった。従前使っていた貨幣は統制せず放置したので今ではだれも使っていないし、クル像の携帯も任意になった。それらについてイリアエルは予め相談されることもなかったし、統治会の場で議論されることもない。
「いったい何なのだ? 権力欲なのか? 今考えると、そもそも統治会の意思決定の方式が曖昧なままにされたのはつまり、事実上ナモクの独裁を認めたのと同じだ。
だから俺は最初に、総員の意志を反映する多数決を前提とした統治体制を提案したのに。
それもナモクは一笑に付して聞き入れなかった。それに、他の奴らもだれもそれを本気で考えなかった。何の危惧もなく、曖昧なままナモクに任せた結果が今なのだ。
ああ、俺は何をしていたんだ? 今考えれば……どうして、ここに及んで統治会の認証など待つ必要があったのだ? それよりも、すぐに行動に移していればよかったではないか? そうすれば少なくとも、俺がもっと早く決断していれば、もっと早く行動していれば、少なくとも仲間を失うことはなかった。こんなに追い込まれることもなかったはずなのだ。
……俺は追い込まれているのか?
むしろ、今の状況は俺自身が作ったのではないか? 別にだれも俺を追い込もうとなどしていない。俺が俺を追い込んでいるだけなのか。そして、やはりそれも、早く行動しないからだ。ああ……」
イリアエルは、今までの抑制した思考からは想像できないほど露骨に、率直に考え続けていた。多くの者がイリアエルの心を探って、それはすでに多くの者の知るところとなっていた。イリアエルについて噂する者の多くは同情的な立場であった。
しかし、イリアエルへの同情は、ナモクを否とすることを意味しない。多くの者は単にイリアエルの心情を気の毒だと思ったに過ぎず、その主張自体に賛同する者はほとんどいなかったのである。
ついにイリアエルはタミルノたちのいる拠点に辿りついた。