3
次に目を覚ましたとき、マセルは古びた屋根裏部屋のようなところにいてベッドに横たわっていた。マセル自身の体感では、死んでから目を覚ますまで10分ほどしか経過していないように思えた。そして自分がマセルであり、自分は死んだのだということもすぐに理解できた。
「これが地獄か……」
どうやら現世での記憶はまったく損なわれていないようだ。
マセルは、リギルやクセルら会衆の全員があの儀式でクルへの反逆者となるよりも、ひとり自分だけがクル像を打ちこわしてしまえば会衆の他の者たちは十言に背くことにならずに済むと踏んだ。
そして現実にほぼマセルの思い通りになっていた。
マセルに刺された官吏は一命を取り留めたが、自分の失態となることを恐れて経緯を歪曲して報告したからである。記録上ではマセルがひとり逆上して刃向ったために処刑され、それ以外の者たちは従順にクル像を破壊し、儀式そのものは定め通り完了したことになったのである。
マセルは目が覚めてから何日かずっとこの屋根裏のような部屋に閉じこもっていた。マセルは直接事の経緯を確認することはできなかったが、少なくとも自分の目論見は無駄ではないと確信していた。
ただし、その代償に自分は地獄へ落ちざるを得なかった。覚悟していたことだが、これでシリと再会する希望が永遠に絶たれたという絶望感はどうすることもできなかった。だがそれを和らげてくれたのはヌルであった。
日毎の食料や必要な品をタミルノという男が運んできてくれた。ヌルはタミルノの息子であった。ヌルはシリよりも、つまりシリが死んだときの歳よりも少し大きいが同じ男の子で、マセルはそれにシリの面影を重ねていた。
シリはタミルノが来るときはいつも一緒に来る。それだけでなく、タルミノとは別にひとりでも遊びに来た。
マセルはこの場所と自分の状況について少しずつ聞いた。今マセルがいるこの場所は、ヌルやタミルノに聞いたところでもやはり地獄には違いないようだった。しかしマセルは少し不思議に思っていた。まずここは現世での罪によって責めを受け続けるというようなところではなく、むしろいたって平穏な世界のようだ。第一、寝食する場所や着物、食糧、それに健康な肉体もそのままある。何というかここは現世に類似した世界に思えた。