イリアエルの誤算 1
イリアエルはたった一人なので探索隊に比べればかなり早く進んでいる。とは言え、タミルノたちのところまで辿り着くにはやはり相当の日数が必要であった。イリアエルは途中にある各拠点に立ち寄ったが、たいていそこにいた隊の者たちはすでに事情を知った上で、苦言を呈する者も、それどころかイリアエルの考えを詮索する者すらほとんどなく、ただ些少の飲料などを提供すると、後はそっけなくイリアエルを見送るだけだった。
イリアエルはだれも何も尋ねないことを逆に不自然に思った。もちろん、何か聞かれたところで、はっきり説明できるほどの考えを持ち合わせてもいなかった。しかし、それでも少し変な感じがした。もちろん、本当に無関心なわけではないようだ。つまり、みんなイリアエルの行動をそれなりに尊重しているから何も言わないのだ。心を読めばそれは分かる。
分かるのだが……それでも、何か言ってほしかったと思うのだ。むしろ、お前の行動は間違っているぞと面と向かって責めるような者が少しはいてほしいような気がしたのだ。
その一方で、ここまで出張っておいて、人から構ってほしいなどとつい考えている自分が幼稚にも思えた。
「もっと、太くならなければ……」
イリアエルはこのところ、何について考えるにしろ結局それに行き着いてしまうように感じていた。裏を返せば、今まであまり直視していなかった自分の弱さ、それにばかり意識が向いてしまうのを止められないのであった。それを回避しようと考える、しかし、そうやって回避しようと意識していること自体が、また自分の弱さを証明しているかのような気がして、イリアエルは同じ言葉を何度も繰り返し思った。
「もっと太い人間……
きっとナモクや、タミルノや、マセルたちは、今自分がこうして考えているようなこと自体ほとんど気にすることもないのだろう。本当に強い人間は、自分が強いのか、本当は弱いのかなどということ自体を問題にはしないのだろう」
イリアエルは立ち寄った各拠点でも長く駐留することなく、一通りの挨拶と謝辞が済むとすぐに発った。そして、振り払うことのできない自分の弱さへの執着のようなものから逃れようとひたすら線の上を進んだ。進んだからどうなるというものでもないが、できることはひたすら歩を進めることしかなかった。
新しい天光源が発見された時、実はイリアエルは自分の側近たちを中心とした統治上の正式な支部を構えたいと考えていた。あの会合の日、イリアエルはそのために近しい者には事前にこの目論見を説いて賛同を得、これを正式に認めさせようとしていたのである。
「なのに、結局何もできなかった……」
最初はあくまでも支部として、しかし後にはナモクの影響力を離れた、事実上の新しい会衆を作り上げたいとイリアエルは密かに目論んでいた。より篤信的で、より先鋭的な選ばれた会衆だ。アジョ派と呼ばれた、かつての自分たちがそうであったように。
おそらく、今のナモクならば現実にそのような動きに気が付いたとしても特に何の策も示さず黙認するだろうと踏んだ。表面上はナモクの意志に沿っているように見せて、それによって事実上ナモクと完全に決別する腹積もりであった。
「よもや、ナモクがそこまで知った上であらかじめ封じたのか? 以前のナモクなら……いや、今の呆けたあいつがそこまで見通して手を打ってくるなど。しかし、結果としてはナモクがあらかじめ自分たちの行動を阻止した形となった。
いや、ナモクの調子に飲まれて勝手に怯んで自らの主張を取り下げてしまったのは自分自身だとも言える。奴らもまさにそれを責めているのだ。何もしないうちに、自分の言を翻してしまった俺の不甲斐なさ、半端さを」