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「ちょっといいか?」
各々が散ると、タミルノはマセルを呼んだ。ヌルも一緒について来た。
「実際のところどう思う?」
「どうって? イリアエルのことか?」
3人は少し歩いてから、まっ平らな地面に同じ方向を向いて一列に腰を下ろした。
「……イリアエルのこともそうだが、ナモクや……いや、そもそも今の俺たち全員のことだ」
「そう、だな……」
マセルは頭の上まで腕を伸ばして伸びをすると、そのまま両手を枕にして地面に寝そべった。空はだだっ広く夜明けとも日暮れとも取れる色をしている。この地は結局のところ平和そのものだとマセルは何となく思った。
「なあタミルノ。お前が協力すると言って会衆が統一されたとき、イリアエルが言ってたよな?」
「ああ」
「それぞれが思い思いに暮らしているだけではいけない、これはお前たちを導くために必要な統治だと」
「そうだ。ただ、俺の解釈では、俺たちを導くとしたら、それはクルご自身だがな」
「……うん、ならばどうして統治する必要がある。いや、日常的な管理というのなら分かる。そのためには少しは組織だった会衆も必要だ。それは俺もそう思う。だがな」
「うん、なるほどなあ。いや、分かる気がするよ。マセル。お前が言っているのはつまりこういうことか? みんなを管理するのは必要だが、目的や何かまで規定してそれに従わせようとするのは、つまり意味が違うと?」
「うん、まあそうだ。と言うか、管理する必要すらないかも知れない。要するに、あいつが言ったように」
「うん?」
「イリアエルは、それぞれが思い思いに暮らすのがいけないと言ったんだ。言葉のあやなのかも知れんが、だが俺は正直、それのどこがいけないのか、と感じた。もちろん、みんなが無関係にばらばらに生きるというのはおかしい。しかし、みんなが一緒になって一つの秩序の中で暮らすということと、そうであっても思い思いに暮らしてゆくということは何も矛盾しない」
真ん中のヌルが、タミルノとマセルの顔を交互に見ながら聞いている。
「その、みんなの思いそのものを統治しようというのなら……じゃあ、クルの思いはどうなる? 俺は何か違っている気がするんだが」
タミルノは興味深くマセルの論を聞いていた。つまりタミルノは、マセルが意外にも成り行きを自分なりにしっかり解釈していること自体に驚いた。印象として、マセルは周囲の状況や他人の意向にほとんど無頓着な男だと感じていたからである。
口には出さなかったが、タミルノはあらためて、こいつは単に無感情な男なのではない、というふうに思った。ヌルが特に懐いているのも何となく分かったような気がした。
それに……
「なあマセル。俺はやっぱり思うんだ。お前がこの地に来たのが、お前が最後だったのには、何か訳があるような気がするんだ」
「それもクルの意思だと?」
「ああ」
「うん、俺にもまだ何も分からない。だが、単なる偶然ということはないだろうな」