8
仲間たちのところへ戻ると、ヌルは少しの食べ物を貰って食べた。
「おじさん、まだ水は飲めないの?」
「ああ、まだだな」
「僕、できれば今度はあれがいいな。あの温汁」
「そうだな、水ができたらまた作ってやろう。楽しみにしてな」
光源は採取すると時間の経過とともに質感などが変化するが、最後に飲用できる純粋な水のようになり、それでも使用せずにそのまま放置すると消滅する。到着してすぐ採取した光源の一部は水を確保するために温存されているが、まだまだ時間がかかる。
「ふうう、マセル。のど乾かない?」
「まあな。大丈夫だけど、あるんなら飲みたいな。やっぱり」
「そう。僕も」
ヌルはそう言いながらもまたイリアエルのことを気にし始めた。マセルもイリアエルの様子を探った。細かい内容は違うが、ずっと一人で何かを考え続けている状況は変わらないようだ。
「何やってるんだろうな? イリアエル」
マセルがそう呟くとヌルも応じた。
「うん、なんかとっても困ってるみたいだね」
「そんな感じだな。ヌル、さっきからずっとイリアエルのこと見てたろう? ずっと変わらないのか?」
「うん。ずうっと同じ。だれかそばにいないのかな」
そう言えばそうだ。見た限り会話したり人と心を読み合ったりしている様子はない。それにしても、とマセルは思った。いや、マセルはイリアエルのことよりもむしろ、こうやってなぜかイリアエルのことを心配しているヌルのほうを不思議に思った。それなりに心配なのは分かるが、いつもならこれほどずっと一つのことに集中していることはないように思えた。
それに、イリアエルとはしばしば会っているとはいえ、普段からそれほど親しいわけでもないだろう。もちろん、マセル自身がこの地に来る以前のことは詳しく知らないが……
マセルはヌルの心をそっと読んでみた。ヌルはマセルと話し終わるとまたすぐにイリアエルの様子を探っている。しかし、なぜそれほど拘るのかは分からなかった。ただ、ヌルには何か思い当たるところがあるようで、いつかこうなる、というような漠然とした予測があったようだ。ただし、それがなぜなのか具体的には読めなかった。おそらく、ヌル自身にも表現できない感覚なのではないだろうか?
「……きっと寂しいんだよ。イリアエルさん、いつも一人で頑張っていたから」
思いがけずヌルが言った。マセルは一瞬、子供らしい単純さだ、と思ったが、同時にもしかすると本当にそうなのかもしれない、という考えが過った。そう言われてみればイリアエルには何となくそういうところがあるような気もした。一人で思い込むような、それでいて常にだれかに見てほしいような気持ちか……
「そうかも知れないなあ……ヌル、お前の言う通りかもしれない」
マセルは薄暗いままの空を見上げた。ヌルもそれを見て真似するように天を仰いだ。二人は本拠地にいるはずのイリアエルの顔を思い浮かべていた。