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「ヌル。また天光源を採りに行こうか」
ヌルが大人たちの話を聞いて不安そうにしているので、マセルはヌルを誘って言った。
光源集めはここにいる全員にとって日課のようなものになっていた。仲間たちは、この地点を単なる中継点ではなく、ある程度人が長期に住めるような堅固な拠点にすべきだと考えていた。将来的には本拠に次ぐ集落になる可能性もある。とにかく今出来ることは大量の光源を収集して可能な限り資材を蓄えることであった。
「うん……」
「どうした? 大丈夫だよ。ただちょっと……別に問題が起こったわけじゃない。ただ、本拠にいるイリアエルが何か悩み事でもあるんだろう。それだけだ」
「うん。でも、イリアエルさんって、いつも優しくてかっこいいのに、何だか変だね」
「そうだな……じゃ、行こう」
マセルは光源の粉末を要領良く袋に集めている。何度も繰り返すうちにかなり手馴れてきた。一方のヌルはいつもなら競ってたくさん集めようとするのだが、今は上の空という感じで緩慢に作業していた。
マセルは少し手を止めてヌルの気持ちを読んだ。ヌルはイリアエルの心を読み続けているようだった。ヌルは別に自分が不安になっているのではなくて、子供ながらにイリアエルの様子を案じているのだ。マセルは何も言わずそっと微笑んで、知らぬ顔でまた光源集めに精を出した。
「ふう、ちょっと休むぞ。ヌル」
マセルはくたびれて座り込んだ。ひとしきり作業しても、採れるのは手荷物用の小さな袋に半分くらいだ。仲間たちに聞けば本拠では採取用の簡易な道具があって、それを使えば今よりは効率的に作業できると言う。そうでなくても、もっと奥まで入り込めれば多く集められそうな気がするのだが、すると地表そのものが天光源に覆われているのでちょっとした隆起でも脚を取られて滑ってしまって登れない。
マセルは本拠にある家屋や、いつも市場で捌かれている多くの品物を思い出した。確かに時間だけはいくらでもある。それにしても、あれだけの豊富な物量をこうやって地道に集めたのかと考えると気の遠くなる思いがした。
ヌルは休まず光源集めを続けていた。と言っても、気持ちはイリアエルのほうにあるので動きは緩慢である。まあ別にそれでも良い。咎める必要はないし、マセルはそっとしておいた。
マセルのほうはその後も作業を続け、手持ちの袋がいっぱいになったので
「ヌル、そろそろ戻ろうか」
と声をかけた。
「うん」
と答えたヌルの袋を見るとまだ半分くらいであった。