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天国のマセル  作者: 中至
イリアエルの逃亡
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会合の後、自分の部屋に戻ったイリアエルは、統治会の結果を記すため自分の卓の上にもう一度議事録を広げたが、整理の付かない思いが沸き起こってまだ何も書けずにいた。


まず、とにかく鐘の件は決定か……いや、あれでは正式に承認を得たとも言えないのではないか? どう記録しておけば……


「ん、待て」


イリアエルは思わず独り言を吐いた。鐘の件などどうでもいいのであった。とにかく全体としてこの会合の趣旨はあくまで天光源の発見についてだ。疑問も多かったが、ナモク自身ももちろんそのことを問題にするために招集したのだ。それ自体は間違いない。


ナモクはなぜあんなふうに。言ってみればナモクは住人たちの意見をすべて封殺したに等しい。俺の意見すら。自らは何の積極的提案もないのに、にもかかわらずだれの意見も聞こうとしない。なぜだ?


そして、住人たちが早々に退出してしまったこともまったく解せなかった。何のために集まってきたのだ。まったく、ナモクもナモクだが、他の住人たちの意図も見えない。


イリアエルはふと思い付いてナモクの心を探ってみた。しかし、ナモクはすでに就寝しているようで、その心を捉えることができなかった。何だ、もう眠っているのか? 気楽な。呑気なもんだ。


イリアエルは半ば憤慨した表情で、そこに議事録を広げたまま立ち上がると外出した。


向かった先は昨日訪れたのと同じ家で、イリアエルが近しい者たちと内輪で語り合う時にはたいていそこであった。イリアエルが顔を出すと、全員ではないがいつもの仲間たちがすでに集まって話していた。おそらく会合の後そのまま連れ立ってここへ来たのだろう。


「お前たち、さっきの態度をどう思った?」


イリアエルは仲間の顔を見るやいきなり感情のままに言葉をかけた。だがイリアエルは奇妙な感じがした。同調するどころかそれに応じて返す者すら一人もいない。仲間たちの言葉を待ってそれぞれの顔を見回した。


しかし一瞬の後、イリアエルは理解した。自分の感情とは裏腹に、仲間たちはむしろ俺に対して批判的な目を向けているのだと。彼らはおそらく、自分がここへ来る今の今までナモクではなくて、俺のことを囁き合っていたのだ。


「いや……何、なんなのだ。お前ら、この俺に責があるというのか?」


だれも何も言わなかった。ただ黙ってイリアエルを見ている。その心には、ある者は嘲笑、ある者は同情、いずれにしろイリアエルがまったく期待も想像もしていなかった感情ばかりが浮かんでいた。イリアエルは逃げ出したくなるような不安と、強い孤独感に胸を挟まれたような気がして思わず二度空咳をした。


「お前ら……」


言葉にならない。というより吐く言葉がない。イリアエルはまた数回乾いた咳を繰り返しながら外へ出た。

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