マセルの死 1
すでに会衆には男たち全員が集まっていた。クセルが待ちかねたように告げた。
「おお。来たのかリギル、お前たちで最後だ。今も皆と話し合ったがやはり従うしかない」
リギルは軽蔑するような表情で立っていた。
「我々だけではない。もしここで我々が抵抗すればクル教そのものがこの世から消えてしまうかもしれないのだ。何としても生きなければならない。どんな汚名を着せられようと我々は生きて伝えるのだ、クルの言葉を」
「おお……」
一同が頷いた。クセルはもう言うべき言葉はないとばかり目線を背けてため息をついた。膠着する空気が流れた。
「行きましょう」
マセルが言った。リギルは終始黙っていた。
クセルたちが作った獣像は集会所の裏手に野ざらしのまま置かれていた。中がくり抜かれた木製の顔と胴体が組み合わされており、その継ぎ目に金属の飾り物が不規則にあつらえてある。クル像よりも一回り大きいが見るからに雑な作りであった。男たちは引車にまず獣像を乗せると荒縄で縛りつけた。
次に自分たちのクル像を運ぶためもう1台の引車には何重にも筵を敷いた。クル像は凝灰石に精巧な彫刻を施した威厳のある立ち居姿で、丈は人と変わらないが獣像よりもずっと重い。
「そおっとそおっとな」
クセルの誘導で引車の上にクル像が慎重に横たえられた。
支度が整うと遠巻きに眺めていた女子供たちが近付き、それぞれに抱き合って言葉を交わしていた。しかし、ついに獣像を乗せた引車がクセルを筆頭に出発した。少し遅れてクル像を乗せた引車も発った。見送る女たちは跪いてクル像に最後の祈りを捧げた。取り乱して嗚咽する者もいた。