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イリアエルはやはり習慣通り一応ナモクの部屋へ向かうことにした。着替えを済ませてナモクの部屋に出向くと、ナモクは相変わらず水煙草を咥えて椅子に座ってゆったりしていた。
「ナモク……まだそこにいたのか? もう全員集まっているらしいぞ。今日はみんな急いているようだ」
「ああ、そのようだな。まあ無理もないだろう。初めて探索の成果があったわけだし」
「そのことだが、何か腹案はあるか? もしないなら、俺はちょっと提起したいことがあるんだが」
イリアエルは予めナモクの意向を伺おうと尋ねた。
「提起? イリアエル……まあ、それもいいが、たぶんお前が言うまでもなく色々意見が出るだろうと思うぞ?」
ナモクに言われてイリアエルも、そう言われればそうだと思った。しかし、だからと言って自分の目論見を引っ込めるつもりはなかった。
「それぞれに意見を言うのは勝手だがな、イリアエル。俺はここで慌てて策を弄すのは何か拙速だという気がするんだ。そうは思わないか?」
「拙速? ナモクよ、行動せねば何も変わらんぞ。何のためにこれまで統治を目指してきたのだ」
ナモクは答えずイリアエルの顔を見つめていたが、やおら水煙草を卓に置いて立ち上がった。
「さて、ではそろそろ向かおうか」
イリアエルは今までより少しだけ距離を置くようにナモクの後ろをついて歩いた。背後から反発というより憐憫のような思いでナモクを見つめた。
自分の思いがナモクに読まれることを心配する必要もなかった。最近では、ナモクは人の気持ちをいちいち読んで反応することすら少なくなっているように見えたからである。それどころか、そもそも心など読むまでもなくイリアエルは何かにつけ節々にナモクへの非難を露わにしてきた。それにもかかわらずナモクは怒ることも、反論することもない。おそらく、それすら億劫なのだ。
こんな男の後を……自分はいつも、それはもう現世に生きていた時からずっと常にこの男の背中を追ってきたのだ。
「イリアエル。みんなが待っていると言うから、少し急ごう」
思いに耽っていたイリアエルに、ナモクが振り向いて突然言った。いつの間にかイリアエルは少し遅れて、ナモクとの間が空いてしまったのだった。
「ああ……」
イリアエルは力なく答えると、歩を速めた。