10
マセルがリギルの家に着いたとき、リギルは外にいた。自分の家の前の石段の真ん中に胡坐をかいて、眠っているわけではないだろうが、いつからそうしているのか俯いたままじっと動かない。マセルはリギルの正面に立ち止まった。
「弱いと思うか?この俺を」
マセルの気配に気付いてリギルは独り言のように聞いた。
「……リギル、そこで俺を待っていたのか?」
リギルの顔を覗き込んだがリギルは目を合わせようともせずじっと俯いて座ったままだった。
「クラサキを巻き込みたくはないと……それにお前たちを置いて逃げれば裏切り者のそしりを被ると」
「反対されたのか」
「ああ冷静になって考えれば妻の言うとおりだ。すまない、マセル」
「俺に謝ることはない。逃げて助かるものなら俺でもそうする。誰も責めはしない」
少しの沈黙の後に、マセルがふと思い出したように笑ったのでリギルは初めて顔を上げた。青ざめていた。
「何を嗤う」
「いや……お前が俺に謝るのはあの時以来だな。リギル、お前のせいで俺はさんざん叱られたんだ」
二人は、あの一件以来初めて互いに顔を見合わせて笑った。マセルはリギルの手を取って立ち上がらせた。それから二人はもう何も言わずいつもの道を並んで歩いた。
集会所に着き、マセルが先に入ろうとするとリギルは意を決したようにマセルの背中に向かって言った。
「本当に行くのか。これは明らかにクルへの裏切りだ。お前が蹴った時とはわけが違うぞ!」
青ざめたリギルと対照的にマセルは落ち着いた表情で振り返ると言った。
「大丈夫だ」