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仕組みの外側  作者: Svolik
第二章
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第六章

彼が呼ばれたのは、すぐではなかった。


二日間にわたる試行錯誤のあと、さらに一日、比較的静かな時間が与えられ、その区切りがついたところで、呼び出しは来た。事前の説明はない。扉が開き、同行を促される。それだけだった。


彼はそれに従いながら、周囲の変化を観察していた。通る経路自体は以前と大きく変わらない。しかし、周囲の人間の態度が微妙に違っている。単なる警戒ではなく、意識的な配慮に近いものが混じっている。彼はすでに「扱う対象」として認識され始めていた。


それは想定内だった。


ただ、それとは別に、もう一つ気になる点があった。これまで城内で見かけた人間の顔ぶれを思い返してみても、ほとんどが男だった。兵士、役人、監視にあたる者、食事を運ぶ者に至るまで例外はない。女性の姿は、彼の記憶にある限り、あの儀式のときに使われた少女だけだった。


偶然とは考えにくい。


彼はその違和感をそのままにしておいた。結論を急ぐ必要はない。だが、無視するには明確すぎる特徴だった。


扉が開く。


前回と同じ部屋。しかし、印象は違っていた。あのときは評価の場であり、今回は対話の場になっている。


統治者は机のそばに立ち、地図に目を落としていた。彼が入ってきてもすぐには顔を上げない。その態度は意図的なものだった。主導権がどこにあるかを示している。


彼は前回と同じ距離で立ち止まる。


それで十分だと分かっている。


やがて統治者が顔を上げた。


「時間は無駄にしていないようだな」


「無駄にする理由がありません」


短いやり取りだったが、空気は以前ほど硬くない。信頼ではないが、少なくとも会話の価値は認められている。


「力は使えるようになったか」


彼はわずかに首を振った。


「制御できないまま使うことはできますが、それでは意味がありません。今は、壊さない程度には扱えます」


統治者は一瞬だけ彼を見つめ、軽く頷いた。


「それでいい」


わずかな沈黙。


その先を促すような間だった。


彼はそれを受け取る。


「では、本題に入りましょう。なぜ私を呼んだのか」


統治者はすぐには答えなかった。机の周りを回り、彼との距離をわずかに詰めるが、対峙するほど近づくことはない。


「すでに察しているだろう。単純な話ではない」


「察しているのは、すべてが語られていないという点だけです。問題は、どこまで語るつもりがあるかです」


挑発ではない。条件の確認だった。


統治者はわずかに笑った。


「理解が早いな」


しばらく考えるように視線を落とし、それから言葉を選ぶ。


「魔法が変わり始めている」


それは報告ではなく、認めるような言い方だった。


「どう変わった」


「代償が増している。以前は問題にならなかったものが、今では成立しない。しかも、その変化は一定ではない」


彼は一瞬だけ視線を落とした。


あの光景が頭をよぎる。


「例外ではない、ということか」


「そうだ」


短い答え。


それで十分だった。


「原因は分かっていない」


統治者は否定しない。


「把握できているとは言えない」


それは率直だった。


そして、それが一番危険でもあった。


彼は少し間を置いた。


「では、なぜ召喚を」


統治者は彼を見据えた。


「我々だけではないからだ」


「どういう意味だ」


「隣国も同じことをしている」


その言葉は静かだったが、意味は重い。


「結果は」


「不明だ。成功したという話もあれば、失敗したという話もある。ただ一つ確かなのは、彼らが試みをやめていないということだ」


彼はその意味を整理する。


敵ではない。


だが、競争が生まれている。


「つまり、問題の解決と同時に、相対的な位置も考慮している」


統治者は否定しない。


「現実的な判断だ」


彼は頷いた。


「だが、それでは問題そのものは解決しない」


「分かっている」


短い応答。


彼は次の問いに進む。


「召喚の条件はどう設定している」


統治者はわずかに眉を動かした。


「何を聞きたい」


「どのような対象を求めたのか」


数秒の沈黙。


「特定の条件を細かく指定しているわけではない。“助けとなる者”を呼ぶ、という形だ」


彼はそれを聞いて、静かに頷いた。


「それなら、結果は妥当だ」


統治者の視線が鋭くなる。


「どういう意味だ」


「“助けとなる者”という条件は曖昧すぎる。強い者を求めているわけではない。適した者を選ぶ形になる」


彼は少しだけ間を置く。


「今回、必要だったのは力ではなく、理解だった可能性がある」


室内の空気が変わる。


彼は言葉を続ける。


「もしそうであれば、私がここにいること自体は誤りではない。誤っているのは、結果に対する期待の方です」


統治者はすぐには答えなかった。


しばらくの間、彼を見ている。


評価しているのは言葉ではなく、その背後の思考だ。


「自分の方が状況を理解しているとでも言うのか」


「いいえ」


彼は首を横に振る。


「あなた方は内部にいる。私は外部から来た。それだけの違いです」


それは優劣ではなく、位置の問題だった。


統治者はゆっくりと頷く。


「続けろ」


「まずは仕組みを理解する必要があります。次に、それがどこまで制御可能かを確認する。その上で、初めて対処が成立する」


彼は一瞬だけ間を置く。


「そうでなければ、代償だけが増えて、問題は残る」


統治者は小さく息を吐いた。


「時間があると思うか」


彼はわずかに笑う。


「選択肢があるとは思えません」


それは挑発ではなかった。


現状の整理だった。


統治者はその意味を理解しているようだった。


そして、それで十分だった。

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