第三章
彼に与えられた休息は、回復のためではなく、支障が出ない程度に身体を整えるためのものだった。疲労は取り除かれたが、時間そのものが巻き戻されたわけではない。動きは軽くなり、感覚は澄んでいる。しかしそれは、調整された道具のような違和感を伴っていた。
呼びに来た者たちは簡潔だった。説明もなく、ただ同行を促す。彼はそれに従う。まだ問いを投げる段階ではない。
通された場所は、召喚の間とは明らかに異なっていた。人の気配があり、動きがあり、判断が積み重なる場所の匂いがする。ここは儀式ではなく、意思が交差する場所だ。
扉が開かれる。
中は簡素だった。過剰な装飾はない。机、地図、数人の人間、そしてその中心に立つ一人。
彼は距離を選んで立つ。近すぎず、遠すぎない。対話のための位置。
視線が向けられる。
「それが呼ばれた者か」
「はい」
短い応答。
「……期待外れだな」
彼はわずかに頷く。
「現在の状態としては、その通りです」
室内の空気がわずかに変わる。
言い訳をしない態度が、予想とずれたのだろう。
「では、説明してもらおう。なぜお前がここにいる」
彼はすぐには答えない。まず観察する。誰が苛立ち、誰が待ち、誰が判断しているか。
右手側に一人、明確な不信を隠さない男がいる。
記憶する。
「私は呼ばれました。しかし、おそらく最適な状態ではありません」
肩をわずかに動かす。
「年齢も、健康状態も、想定と一致していない。したがって、期待されている性能は現時点では発揮できません」
「こちらの不備だと言いたいのか」
「不一致がある、と言っているだけです」
軽い笑いが漏れる。
「言葉はいい。確かめればいい」
男が前に出る。
止める者はいない。
許容されている行為だ。
彼はその意図を読む。
「確認か」
「そうだ」
彼は武器を手に取る。見慣れない形状。握りが横に走る、突きを主とする構造。知識としては知っているが、身体は覚えていない。
彼はそれを戻す。
「これは使わない」
「逃げるのか」
「違う。知らない道具で戦う意味がない」
彼は視線を上げる。
「原理は同じでも、操作は違う」
短い間。
「棒をくれ」
「なぜだ」
彼は即答する。
「棒はどの世界でも同じです」
それで十分だった。
棒が渡される。
彼はそれを確かめる。重さ、長さ、均衡。
問題ない。
対峙する。
互いに動かない。最初の数秒は距離と速度の確認に費やされる。
身体が軽すぎる。
反応が早すぎる。
彼はそれを危険と判断する。
相手が先に動く。
直線的だが無駄がない。
彼は外す。
二度、三度。
リズムが見える。
そしてその隙間に入る。
反撃は正確だった。
だが、強すぎた。
理解した瞬間には遅い。
相手の身体が弾かれ、石壁に叩きつけられる。
動かない。
沈黙。
彼は棒を下ろす。
内側に浮かぶのは焦りではない。
別の感覚だった。
自分が修復されたときの光景が重なる。
もし治療するなら――
誰かが払う。
彼は視線を落とす。
目の前の男は生きているか。使えるか。そして、その価値は支払うに値するか。
数秒。
思考を分ける。
感情と判断を。
そして顔を上げる。
「これは私の過失です。力の調整を誤った」
一拍。
言葉を選ぶ。
「治療が必要です」
空気が変わる。
「自業自得だ」
統治者はそう言う。
彼は頷く。
「そうかもしれません」
それでも続ける。
「しかし、今は戦力を無駄にできる状況ではないはずです」
視線をまっすぐ向ける。
「彼は役に立つ存在です。失えば損失になる」
沈黙。
比較。
評価。
やがて短く命じられる。
「治療しろ」
人が動く。
彼は見ない。
もう十分に見ている。
そして理解している。
与えられた情報よりも、多くを。




