第二十一章
彼は、さらに訓練を増やし始めた。
最初は自然な延長に見えた。時間が少し増え、強度が少し上がり、自分に対する要求がわずかに厳しくなる。それ自体は誰も不思議に思わなかった。もともと彼にはそれだけの期待がかけられていたからだ。
だが、それはすぐに変わっていった。
訓練は単なる積み重ねではなくなり、ほとんど強迫に近いものへと変わっていく。彼はもはや「どこまでやるべきか」や「効率はどうか」といった問いを自分に投げなくなっていた。そうした考えは自然に後ろへ退き、代わりに一つの単純な、そして逃れようのない感覚が残る。
強くならなければならない。
理由は、もはや説明する必要すらなかった。
それが論理的だからでも、求められているからでもない。ただ、それ以外の選択肢が存在しないように思えたからだ。
彼は限界まで身体を使い続けた。筋肉が正確に動かなくなるまで、呼吸が乱れ、集中が揺らぎ始めても止まらない。そこで初めてやり方を変える。肉体を休ませる代わりに魔法へ移り、制御や精度の訓練へと切り替える。そしてそこでも同じように、自分の限界を押し広げようとする。
教えられた型は、もうなぞらなかった。
彼は探していた。
より直接的な方法を。
意図と結果の間にある距離を、できる限り短くする方法を。
それは不安定だった。
失敗も多かった。
だが、確実に変化していた。
彼の魔法は、以前よりも粗く、しかし同時に、より明確に「何をしたいのか」を反映するものになっていた。
リラはそれを見ていた。
細かいことは理解していない。彼が何をどう試しているのか、どこまで到達しているのか、そういったことは分からない。それでも彼女には分かることがあった。
彼の状態だった。
彼は変わっていた。
常に内側で何かが動いているような、張り詰めた状態が続いている。訓練を終えても、それは消えない。ただ形を変えて残る。
彼女はそれを止めようとはしなかった。
ただ受け入れた。
彼が変わるなら、それをそのまま受け止める。
それが彼女のやり方だった。
だが同時に、彼女は別のことにも気づいていた。
彼は確かに前に進んでいる。
強くなっている。
だが、その内側は整理されていない。
むしろ、混ざり合っている。
欲望も、恐れも、執着も、すべてが同時に存在している。
ある夜、彼が戻ってきたとき、彼女はそのまま彼を見つめた。いつもより少し長く、言葉を選ぶようにではなく、ただ観察するように。
彼はそれに気づいた。
「どうした?」
彼女はすぐには答えなかった。
一歩近づき、彼の前で止まり、そのまま言った。
「それじゃ足りない」
彼はわずかに眉を寄せる。
「何が?」
彼女は少しだけ考えるように目を細めるが、すぐに言葉を続ける。
「強くなってる。でも、中がバラバラのまま」
彼は何も言わない。
彼女はそのまま続ける。
「いろんなものを一緒に持ったまま、無理に前に進んでる」
その言い方は責めるものではなかった。
ただの事実の提示だった。
「それを力で押し切ろうとしてる」
彼は小さく息を吐いた。
「それで?」
彼女は彼を見たまま言う。
「それじゃ足りない」
少しの沈黙のあと、彼は問い返す。
「じゃあ、どうする」
彼女は迷わなかった。
「もう一人、入れればいい」
彼は一瞬、意味を取れなかった。
「何を?」
「女」彼女は言った。「もう一人」
静けさが落ちる。
彼は彼女を見つめる。
それは予想外だった。
だが、彼女の表情に揺らぎはない。
「なんでそう思う」
彼女は肩を軽くすくめる。
「分からない」
正直な答えだった。
「でも、たぶんそれが必要」
彼女は一歩近づく。
「お前、足りてないのは力じゃない」
その言葉は柔らかくも、逃げ場を与えなかった。
「別の何か」
彼は黙ったまま考える。
彼女の言葉を否定する理由は見つからなかった。
「お前はどうなんだ」
彼はゆっくりと聞く。
「それでいいのか」
彼女は少しだけ考える。
だがその時間は短かった。
「分からない」
そして続ける。
「だから知りたい」
その答えには隠しがなかった。
嫉妬も、恐れも、まだ形になっていない。
ただ、興味だけがある。
彼は長く黙る。
それは簡単な選択ではなかった。
彼は彼女を手放したくない。
それは明確だった。
だが同時に、彼女はそれを壊そうとしているわけではない。
むしろ、広げようとしている。
そして彼自身も理解していた。
自分の内側は一つではない。
一人分では収まらない何かがある。
彼はゆっくり息を吐く。
「いいのか、本当に」
彼女はわずかに笑う。
「分からないって言ったでしょ」
そして少しだけ近づく。
「でも、やってみたい」
彼はそれを聞き、しばらく考えた。
そして、うなずいた。
その決断に強い確信はなかった。
だが拒否もなかった。
翌日、彼はその話を持ち出した。
余計な説明はしなかった。
必要もなかった。
王は静かに聞き、ほとんど迷うことなく了承した。
まるで、それが予想されていたことのように。
部屋を出たあとも、彼の中に明確な答えはなかった。
ただ一つだけ、感じていた。
また一歩、前に進んだということを。
その先がどこかは、まだ分からないまま。




