表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

第4章 2日目

私が、ノアさんの背中に軽くつかまり、涼しいくらいに吹き付ける風を感じながら、バイクの後ろに乗っている。ちなみに、地面を走っていて、初めて会ったときみたいに浮いてはいなかった。


(安心したような、少し残念なような……。でも、落ちたら怪我しそうだし、地面を走ってくれてよかったのかな。)


そんな事を考えている間も、ノアさんが運転するバイクは走り続ける。私は、初めて乗るバイクに多少興奮していた。昔から、少し憧れていたのだ。


(うわ~、結構速いよー。楽しーーー。)


それに不可抗力で、今、ノアさんの背中に抱きついている形になるのだが、柔らかい茶色いマントごしから、なんとなく体温が感じられて、それにも少しドキドキしていた。


バイクでいくら走っても、景色は変わらず、植物や動物、水さえ見当たらない。ただの乾いた大地が広がっていた。そこには、人が住めそうにもない。


(魔女とかって、森に住んでいるイメージなのにこんな乾いたところに住んでるのかな?まさか、魔法さえあれば、どんなとこでも住める、みたいな?)


何時間、乗っていたのだろうか。ずーっと同じ姿勢なので、体中が凝ったなとそう思い始めたとき、バイクはゆっくりと停車した。だが、周りには何も見当たらない。

ノアさんが、後ろを振り向く。


「今日は、ここで野宿する。」

「の、野宿、ですか?」

「そう。」

「この世界って、もしかして町とかないんですか?」

「いや、ちゃんと存在する。ただ、町に入る前にあなたに話さなければならないことがある。」

「えっ?まだ、何かあるんですか?」

「とりあえず、座って。」


そう言うと、またもや、ノアさんは野宿の準備というか、布を敷き、焚き火を起こしてくれた。

私は、すっかりむくれた足を伸ばしながら座った。


「ふぅ~。」

「疲れた?」

「えっ、あっ、ちょっとだけ。」

「そう。」


ノアさんは、なぜか私の脚をじっと見る。そして、いきなり手を伸ばして触ってきた。


「あっ、あの、ちょ、く、くすぐったいですよー。」


さわさわといった感じで、微妙な力加減で触ってくるので、かなりくすぐったい。

私が悶えているのを気にせず、ノアさんはウエストポーチらしき鞄から、青い葉っぱのような形をしたものを2~3枚取り出した。


「それ、どうするんですか?」

「これを足に貼ると疲れがとれる。」

「へ~。なんていう葉っぱなんですか?」

「サルロン草という。」

「そういえば、私、この世界に来てから、植物を全然見ないんですけど。そういうのってどこに生えているんですか?」

「ここの区域は特別。何もない乾いた場所。乗り物に乗っていない限り、普通、ここには足を踏み入れない。だから、違う場所には森や湖がある。この葉は、川の上流にしか生えない植物から採取したもの。」

「じゃあ、もしかして、あのままあそこにいたら…………。」

「確実に死んでいた。ここに何も持たずに来るなんて無謀。」

「…………うわ~。これが本当に危機一髪ってやつですか。」

「それは少し意味が違う。」

「あっ、…………すいません。」


まさか、こんな所に来てまで、国語のようなことで怒られるとは思っていなかった。私って緊張感なさすぎ。


(んっ?そういえば…………。)


「あの、ここって日本語で通じるんですか?ノアさん、普通に喋っていますけど。」

「あぁ、私は日本語を話しているが、他の者は話せない者が多い。ここには、ここの言語が存在する。」

「なんでノアさんは話せるのですか?」

「それは、昔に習っていたから。だから、町に入る前にあなたには魔法をかける必要がある。」

「わ、私に魔法?」

「そう、言語を理解する魔法。あなたにかけるという表現は適切ではないかもしれない。あなたの中に魔法を入れるという表現の方がわかりやすい。」

「魔法を入れる?」

「そのことについては、あとで話す。それともう一つ。」

「はい、なんですか?」

「この世界で、あなたが人間だと知られるのはまずい。」

「えっ?」

「だから、あなたは名前しか名乗ってはいけない。名字はあまりに我々のものとかけ離れているから。」

「は、はぁ。」

「人間だと知られないために細心の注意を払って。もし、バレてしまったのなら大変なことになる。」

「た、大変なことってなんですか?」

聖魔隊(せいまたい)に捕まる可能性がある。」

「聖魔隊ってなんですか?」

「あなたの世界でいえば、警察のようなもの。魔界の平和を司っている機関。」

「け、警察!?つ、捕まったらどうなるんですか?」

「最悪の場合、永遠に牢獄から出られなくなるか、もしくは、命を奪われる。」

「そ、そんな……。ど、どうして?」

「昔に、人間界で魔女が大量に殺された歴史があるから。今でも、人間を憎んでいる魔界人は多い。人数的には、半々といったところ。」

「あっ、それ、知ってるかも。魔女狩りのことですよね?」

「そう。でも、あなたが自分で話さない限り人間ということは分からない。ほとんどの魔界人と人間は見た目が変わらない。」

「でも、魔法が使えなかったらバレるんじゃ?それに目の色とか?」

「それも問題ない。魔界人には魔法をほとんど使えない者もいる。詳しく調べられない限り大丈夫。瞳の色は人間界みたいに色々あるだけ。あなたみたいな黒い瞳の魔界人もいるから。」


その話を聞き、ひとまず私は安心した。いきなりこの世界に来させられて、殺されるのはごめんだ。しかも、それがかなり昔に起こった歴史のせいなんて、不幸すぎる。


私は、無事に日本に帰れるのかな。ちょっと心配だ。たぶん、あまり目立つ行動はできないだろう。

ちらりとノアさんをみると、何やら野球ボールくらいの綺麗な青色の石を鞄から取り出していた。


「あの、それは?」

「さっき言った、あなたの中に入れる魔法。魔心石(ましんせき)と言われるもの。」

「どうやってそれを私の中に入れるんですか?」


(まさか、飲み込めなんて言わないよね?)


「お腹を出して。」

「へっ?」

「服をめくって、お腹を出して。」


ノアさんは何の感情も込めず、さらっと言ったので、一瞬私は何を言われたのか分からなかった。あまりに表情が乏し過ぎでしょと少し思う。


「せ、セクハラですよ!!」

「セクハラ?」


私が頬を赤く染めながら、お腹を抑えてそう言うと、ノアさんにはさすがに知らない言葉だったのか、少しだけ首を傾けた。


「それはどういう意味の言葉?」

「いや、そ、その、特に意味はないので気にしないでください。」

「……そう。」


気のせいなのだろうか、ノアさんがちょっと拗ねている気がする。基本、無表情なので分かりにくくはあるが、不満そうな顔をしている気がするのだ。だか、そんなちょっとした変化もすぐに消え、また私に同じ言葉を繰り返す。


「早くお腹を出して。」

「は、はい、分かりました。」


私は観念して、制服の裾をめくってお腹をみせた。

ノアさんはそこにさっきの青い石を当てる。冷たい感覚がして、私はビクッととした。

そして、ノアさんは腰のベルトについていた杖を引き抜いて私、というか、その石に向ける。


「コハラン、ティティアール。」


そう呪文を唱えた瞬間から、私のおへそのあたり、石を押し付けられている部分がどんどん熱くなるのがわかった。それはもう、やけどをしてしまうのではないかと思うくらいに熱くなっていく。


「……熱っ。」

「少しの間、我慢していて。」


そう言いながら、ノアさんは石をぎゅうっと押しつけてくる。


熱い、お腹が熱い。それに、なんか奇妙なものが身体の中に入ってきているような感覚がする。


(な、なに、これっ?)


燃えるような熱さに私は後ずさりそうになるが、がっちりとノアさんの左手に抑えられていた。

グググゥとお腹に抑えつけられている感じがひと際強くなると、じわりと完全に体の中に何かが入った感覚がした。見ると、あれほどに熱かった石がいつの間にか消えていて、そのかわりに私のおへその内側がじんわりと熱を持っている。


「気分が悪くなったとか、変な感じはしない?」

「え、えっと、はい。大丈夫です。」

「そう。」

「あの、さっきの石は?」

「見ていなかった?あなたの身体の中に入れた。」


そう言われ、驚きと共に、お腹に触れる。さっきは固く目を閉じていたので、何が起こったのか全く分からなかった。


「これであなたは私たちの言語を理解できるようになった。言葉を話すことも聞くことも読むこともできる。でも、書くことだけはできない。」

「そ、そうなんですか。」


私は、まだなんだか不思議な気分がして、ぼーっとなる。

なんて言っていいのかさえ、考えられない。でも、これだけは聞いておかなければと口を開く。


「私の身体に悪影響とかないんですか?」

「ない。魔心石は古くから使われているもの。安全性は確認済み。それに、私が魔力を込めたものだから。」

「ノアさんが?」

「そう。悪意を持った魔力を入れれば、身体に何らかの影響があるかもしれないが、私にそんな意思などない。」


私の中にノアさんの魔法が込められている石が入っている。そう思うと、なぜか安心したような気持になるから不思議だ。まだ、会ってから全然時間もたっていないのに、私はノアさんのことを結構信頼しているらしい。


いつの間にか、答えは出ていたのだ。ノアさんはいい人で、信用していいと。そう私は、無意識に気づいていた。だから、あんなにごちゃごちゃ考える必要なんてなかったんだ。あまつさえ、助けてくれた本人に聞いてしまうなんて、愚かにもほどがあるだろう。


私は、寝転がりながら、空を眺めた。もう夕方なのだろう、二つの月の片方が、だんだんと光を失っていき、周りも暗くなっていった。淡く輝く月を眺めていると、今、人間界ではどうなっているのだろうという考えが、浮かんできた。


家族は心配しているのだろうか?それに、相馬も。何も言わずにこちらに来てしまった私は、きっと行方不明になっていると思う。あまり考えないようにしていたが、最低でも帰るのに数年かかってしまうかもしれないのだ。人間界への道が開くまで。


(はぁー、無事に帰れるよね……。)


「これ、食べて。」


すると、私の目の前にまたもや缶詰があった。身体を起こすとノアさんが私にユーラの缶詰とサク茶を差し出していた。


「あっ、すいません。ありがとうございます。」


私が慌てて受け取ると、ノアさんは私が持っているユーラの上に、ドロッとした透明な液体をかけた。


「えっ!あ、あのっ?」

「これは、イスタルという果物の果汁。ユーラが同じ味だと飽きるから考え出されたもの。少し甘くて、酸味もあっておいしい。」


そう言いながら、たっぷりと私のユーラにかけてくれた。


「は、はい、どうも。」


私は、それが見た目的に水あめみたいに見えて、かなり甘そうな予感がした。だが、返すわけにもいかないので、一口かぶりつく。


すると、


「お、美味しい…………。」


そう、とってもうまかった。例えるなら、レモンやグレープフルーツの果汁に砂糖を混ぜたものというのか、かんきつ系の味を甘くした感じだった。その甘さが絶妙で、いい具合に酸味とマッチしている。


ノアさんは、そんな私の表情を見てどこか満足そうに、うなずき自分もユーラを食べ始める。

そんな風にまったりと私たちは夕食を楽しみ、明日も早いということで私たちは早々と眠りについた。


第四章でした。少しづつ用語?みたいなものが出てきましたが、詳しい説明はとりあえず、もう少し溜まったらまとめて説明したいと思います。


次回は、七月末くらいになってしまうと思います。時間があれば、早まると思いますので、次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ